フォーラム

第1回講演会

  • 2026年度第1回講演会
  • ~的場JETROアフリカ総代表・ヨハネスブルグ事務所長 講演会~
    「南部アフリカの現在~南アフリカを中心に」
      6月1日、国際文化会館にて、標記演題の下、的場真太郎JETROアフリカ総代表(兼)ヨハネスブルグ事務所長による講演会が開催されました。的場所長からは、アフリカ及び南アフリカ情勢などについて、豊富なデータに基づくプレゼンテーションが行われ、アフリカ進出を検討中(あるいは進出済)の日本企業にとって有益な情報も多数紹介されました。講演に引き続き活発な質疑応答が行われました。概要は次のとおりです(会場 64名、 オンライン 20名参加)。
    【講演要旨】
    (アフリカ情勢)
    1.政治情勢
    2025年、アフリカ各国で大統領・議会選挙が行われたが、カメルーン、タンザニアでは高齢の現職大統領が再選され、両国とも若者(Z世代)を中心とした抗議活動が発生。また、マダガスカル、ギニアビサウ、ベナン(未遂)では、軍部だけでなく、野党や若者の反発によるクーデターが発生。
    2026年も、多くの国で選挙が予定されている。指導者の多選や高齢化が進む中で、若者の人口増により平均年齢が20歳前後まで下がった国が多いため、指導者層と若者との世代間ギャップが拡大している。これが各国政治情勢にどのような影響を与えていくのかは注視する必要がある。
    2.経済情勢
    ビッグ4と呼ばれるエジプト、ケニア、ナイジェリア、南アだけでなく、多くのアフリカ諸国で2025年のマクロ経済指標は好調であった。但し、中東情勢による物価上昇圧力や経済全体への今後の影響が懸念される。ところで、アフリカとアジアを比較する場合、(1)南ア=タイ、(2)ナイジェリア=インドネシア、(3)エジプト=フィリピン、(4)ケニア=ミャンマーのGDPを例に挙げて比較されることがあるが、アフリカ・ビッグ4の経済規模は、アジア主要国と比べても遜色がない。
    3.テロ情勢
    アフリカでのテロ件数は2016年以降急増している。特にイスラム系組織によるテロが西アフリカ、サヘルを中心に増加している。先般マリでは暫定政権の国防大臣が家族ともども殺害されたが、マリは、ロシアのアフリカ部隊の動向などとともに注視すべき国である。
    4.日本企業のアフリカ進出状況
    アフリカに進出している日本企業(拠点)数は、約1000社と言われるが、エジプト(72)、ケニア(123)、ナイジェリア(52)、南ア(252)と、ビッグ4だけでも半数以上を占める。また、JETROでは各国に所在する日本企業に対し各社の「注目国」を調査したことがあるが、エチオピア、エジプト、コートジボワール、ガーナ、ナイジェリアなどでは、それぞれ所在している国を挙げる企業の割合が多かったのが注目される(海外進出日系企業実態調査 2025)。

    (南ア情勢)
    1.経済概況
    南アは、アフリカ唯一のG20参加国で、2025年は議長国を務めた。人口規模、経済規模、ビジネス環境の良さなど、進出のメリットは大きい。但し、近年経済は成長率1%前後と低迷している。その主因は、電力不足や物流事情の悪化と考えられる。また、失業率や犯罪率の高止まりといった問題に対しては、長年様々な対策が取られてきたが、ほとんど改善が見られない。
    2.政治情勢
    2024年5月の国民議会選挙の結果、民主化以来30年に亘り単独過半数を維持してきたアフリカ民族会議(ANC)が過半数を失い、得票率を40%代に落とした。この結果、連立政権による国民統一政府(GNU)が成立した。GNUが、白人中心の民主同盟(DA)などとの連立であり、ANCが分裂して再結成された新政党もそれぞれ主張を強めているので、今後南アでは、一党単独政権の成立は難しいのではないかと考えている。
    3.産業構造
    第1次~第3次産業まで多様な産業分野を擁し、特定分野に過度に依存しない産業構造を有している。アフリカの中では稀有な経済構造であり、かつ南ア経済の強靭性の源であるとも考えている。こうした産業構造の多様性の持つメリットは、企業が進出を果たした後に、現地でビジネスを支えてくれる「パートナーの層の厚さ」として現れてくるものと考えている。また、南アに拠点を構え、南アを越えて、周辺国とのビジネスまで視野に入れる場合は、南アに進出するメリットは更に大きくなる。なお、過去30年間の産業構造の変化を振り返ると、農業、鉱業、製造業が縮小する中で、第3次産業、特に金融部門が伸長しており、先進国型経済構造に転換している、とも言える。
    4.日南ア貿易概況
    輸出の主力である資源(貴石、貴金属,鉱石など)の輸出は堅調。資源を輸出して製品を輸入するという垂直貿易の基本構造は長年変わっていない。最近、日産自動車の工場が中国企業に売却されたという新しい動きがあったが、2025年の南ア貿易統計を見ると、輸送機械(自動車)について、輸出(前年比+21.3%)が大きく伸びたが、輸入(前年比+22.8%)も、中国からの輸入の急増に伴い急増した。他方で、鉄鋼製品の輸出は急減(前年比―40%)した。
    5.電力、物流の問題
    (1)電力不足:2023年は、ほぼ毎日計画停電による停電が発生した。政府は、2024年の選挙に向けて、発電設備の改修・改善、ガス発電の改善、原子力発電所の寿命延長などの取り組みを進めた結果、現在電力供給の状況は大幅に改善。
    (2)物流の混乱:近年の港湾、鉄道の混乱により、年間80億円の経済活動が失われたとの報告がある。因みに、総陸上貨物輸送量は、過去10年間で21%増加したが、同時に鉄道貨物から道路貨物へのシフトが進み、道路貨物のシェアが全体の83%であるのに対し、鉄道貨物は17%まで低下。
    6.経済格差
    地域、性別、人種間で格差が大きい。因みに、白人グループの平均月収は、今でも黒人グループのそれの4.5倍である。黒人経済力強化政策(B-BBEE)導入後も、格差は一向に解消されないばかりか、昨今は同一人種間でも格差が拡大しており注視が必要。
    7.政府債務
    南ア財務省は、債務のピークは2025/26年度にGDP比78.5%に達した後、緩やかに改善すると予測しているが、昨今の中東情勢を受けて先行き不透明。なお、アフリカでは、ザンビア、マリ、ガーナ、エチオピアでデフォルトが宣言されており、ケニア、エジプトでも累積政府債務が問題となっている。また、セネガル、モザンビーク、マラウィについて、2年以内にデフォルトになるとの報道もある
    8.対米関係
    米国共和党は、長年ANCを「テロ(支援)組織」と位置付け、伝統的に折り合いが悪い間柄。特に、トランプ政権の民主党嫌悪とも相まって、米国との対立が表面化。イスラエル・ハマス紛争に際し、南アはイスラエルを国際司法裁判所(ICJ)に提訴したが、これは「パレスチナ人の自由なしに我々の自由は不完全」とした、マンデラ元大統領の発言に裏打ちされたもの。なお、最近のポジティブな動きとしては、駐米大使に白人のロルフ・メイヤー元国民党議員(アパルトヘイト時代に閣僚経験あり)が指名されたことを挙げたい。対米関係の改善を期待したい。

    (JETROの取り組み)
    1.TICAD9
    昨年8月のTICAD9において、JETROは “TICAD Business Expo&Conference”を開催した。これには200社近くの企業・団体が参加したが、初出展が133社もあったことに注目している。
    2.JETROビジネス・ミッション
    JETRO事務所の置かれていない国に、日本企業等によるビジネス・ミッションを派遣し、訪問先で有力企業視察やネットワーキング・イベントなどを開催している。本年2~3月にはコンゴ民主共和国(DRC)、ザンビアに派遣した。昨今ナカラ回廊、ロビト回廊など、回廊プロジェクトが注目されているが、いずれの回廊もDRC、ザンビア両国にまたがる「カッパーベルト」が起点であり、鉱物開発/サプライチェーンに注目が集まる中で派遣したもの。今年度も同様に、日本企業の関心が高まり、比較的政治・経済状況が安定している国を対象にミッション派遣を企画したいと考えている。
    3.海外進出日系企業実態調査
    JETROは毎年「海外進出日系企業実態調査」を行っている。2025年版で、日本企業の黒字割合がアフリカ全体で61.6%と、2013年以降初めて60%を越えたことが明らかになった。世界全体では、UAE,オーストラリア、韓国、ブラジルなどで黒字割合は高いが、南アも76.2%と健闘しており、実は「アフリカビジネスは儲かっている」と言える証左でもある。
    【質疑応答】
    講演を受けて質疑応答が行われました。例えば、(1)南アにおける電力・物流問題のボトルネックは何か、(2)南アで、白人中心の政党が参加する新政権が誕生したことで、B-BBEE政策に変更はないのか、(3)南アにおけるヘルスケア分野でのビジネスの可能性、(4)イラン情勢の南アへの影響、(5)電力公社ESKOMの問題点、(6)エネルギー源の石炭回帰の動きはないのか、(7)鉱物資源の埋蔵量の見通しなど、多岐に亘る質問がありましたが、的場所長より、ひとつひとつに丁寧に回答がありました。               

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