フォーラム

アフリカ協会主催 第2回フォーラム
「アフリカの民間セクターとビジネスチャンス」議事録

  • ■日 時:平成25 年4 月12日(金)15:00~16:45
  • ■場 所:国際文化会館 別館2F講堂
  • ■外務省ゲスト:TICAD V担当大使 伊藤 誠 氏
  •   

  • ■ゲストスピーカー:国際協力機構 アフリカ部長 乾 英二 氏
     豊田通商(株)渉外広報部渉外グループリーダー 羽田 裕 氏
  • ■参加者:公的機関、民間企業、研究者など41名
開会の挨拶に続き、伊藤TICAD V 担当大使より準備状況のお話を、
続いてゲストの乾JICAアフリカ部長と豊田通商羽田渉外グループリーダーより、
官と民の立場からテーマに関する講話を戴き、
モデレーターを早稲田大学国際学術院片岡教授にお願いして討議を行った。
  • 開会の挨拶(要約)/堀内副会長
  •  昨年11月28日の第1回フォーラムの際には、協会を代表して服部会長がご挨拶を致しましたが、その後体調を崩され、残念ながら1月末にお亡くなりになりました。会長のアフリカに対する思いやりや、アフリカの日本にとっての必要性、そしてアフリカの大きな可能性を信じてこの協会を二十数年に亘り引っ張って戴いたことに、今更ながら会長のビジョンと偉大さに感心しているところでございます。
     鴻池副会長には新会長が決まるまで会長代行としていろいろ事務を執って戴いておりますが、ご承知のように、大阪でタンザニアの名誉総領事をやっておられ、ビザの発行等々、非常に忙しくされ
    ており、今日は上京できないので残念だというお
    言葉を戴いております。
     このフォーラムはアフリカ協会の新しい活動の一環として始めましたが、今年はTICAD が非常に大きな事項であり、6月の支援会合が終わった後、もう一度レビューとフォローアップをやり、それ
    以降は会員の皆様のご興味に沿ったテーマを選んでフォーラムを続けていきたいと思っております。これからは新しい体制で協会を運営して参りますが、会員の皆様、これから入会戴ける皆様、どうぞ宜しくご支援戴ける様お願い申し上げます。
  • 伊藤TICAD V 担当大使 ご挨拶(要約)
  •  11月の第1回フォーラムでは、当時の服部会長がそこの席にお掛けになって、私もすぐ隣でしたが、今回お姿を拝見することができず非常に残念に
    思っております。ご冥福をお祈りしたいと思います。
     TICAD Vは、本番まであと2 ヶ月を切りました。3月には閣僚級の準備会合がアディスアベバで行われ、TICADで採択する成果文書について閣僚レベルでの大筋合意がまとまり、準備が着々と進んでおります。内容的には、アフリカ諸国の更なる経済成長の為にはインフラの整備、農業の発展、人作り等が非常に大事であること、その分野での官民の連携と民間企業の役割の重要性が指摘されています。また、更に人間の安全保障を推進することや、ポストMDGsをどういうふうに持っていくのかといったような議論、あるいは平和と安定に向けた更なる取組が強調されました。今回も多くの首脳レベルの参加が見込まれるほか、全体の総参加人数でも前回を上回ると考えております。本番に向けて準備を進めてゆきますので、是非とも皆様方のご協力をお願いいたします。
  • 1. 乾JICAアフリカ部長のお話(要約)
  •  TICAD V では民間セクターが非常にハイライトされており、アフリカの経済成長は2000 年代から平均でも5% 以上、それをバネにして各国とも産業構造を変換して農業や一次産品の価格だけに頼るのではなく、労働集約型の工業化に進みたいと考えています。これを後押しするために、JICAとしては「アフリカ民間セクター支援」に取組んでいます。1つは「産業構造改革」で、トップの政策を変換しそこを支援していくというような取組みです。2番目に、それを実施していく「産業人材育成」で人のキャパシティー、能力を向上させていきます。3 番目は「ビジネス環境整備」で、制度や法律などのビジネス環境を整備していくことを支援します。4 番目に、それを支えるための「インフラ開発」、道路・電力・水・施設を支援していくことに取り組んでいます。
     1番目の「産業構造改革」の例として、エチオピア・品質・生産性向上普及能力開発プロジェクト」があります。これは故メレス前首相がTICAD Ⅳのシンポジウムの際にアジアの経験をアフリカの開発に生かすという話があり、是非その経験をエチオピアでやってほしいとJICAに直接要請があったものです。プロジェクトの中では、生産性向上運動や5S「整理・整頓・清潔・清掃・しつけ」等を、どのように普及できるかという事をエチオピアの人達と一緒に考えてやりました。政策対話というトップダウンも重要ですが、自分で発想して自らの生産性向上につなげるボトムアップの部分も非常に重要だということの例です。
     2番目の「人材育成」では、産業構造変革と民間セクター推進をできる人材が必要で、職業訓練とか産業界のニーズに合致した人間をどうやって作るかということです。その実践例として、南ア・ツワネ工科大学の成功例があり、これを他の工業大学にも広げようとしています。又、高等教育を支える為に、初等・中等からシリーズで取り組む事や、理数科教育にも力を入れて人材育成を考えています。
     3番目の「ビジネス環境整備」では、ザンビアの投資促進プロジェクトを紹介します。マレーシアの投資庁副長官のジェガテサン氏の40年の経験をザンビアで使いZambia Development Agencyを作り、そこが具体的に投資促進のミッションを出し、また投資をするための環境整備でいろいろなセクターの分析、プロファイル、資料作り等も行っています。その中で、マレーシアの携帯電話会社の工場進出や、首都ルサカにおける日立建機のサービスメンテナンスの工場建設という実績が出てきています。
     4 番目の「インフラ開発」は、道路、港などのロジスティックを回廊沿いに整備しますが、モザンビークのナカラ回廊など拠点を絞って集中的にマスタープランを作り、物流を動かすソフト、ハードを供与します。One Stop Border Postでは、通関手続を1つにすることに取り組み、必要なハードを供与し、制度を構築し、人材作りを支援します。電力はニーズが高く、今後工業化が進み人々の生活
    が潤った時に一番必要になる部分であり、国毎の電源開発よりも、エリア毎の整備の方が効率が高いという考えで取組んでいます。日本の技術力が生かされる地熱発電や太陽光など優位性の高い所でチャレンジしたいと考えます。
     最後にモザンビーク国ナカラ開発回廊地域開発ですが、北のロブマで天然ガスが発見され、南のテテ州では石炭事業化が進められ、東のナカラ港では港と道路を建設し、民間とも連携しながらやっています。また、コアとなる「プロサバンナ・プロジェクト」をブラジルと一緒に取り組んでいます。このナカラ回廊はザンビアやマラウイに繋がり、内陸部のロジスティックの向上にも寄与します。加えて、保健・人材育成・森林保全など総合的なアプローチでモデルケースとして取り組んでいます。
     
  • 2. 羽田豊田通商渉外広報部渉外グループリーダーのお話(要約)
  •  アフリカから日本への期待は、「製造業に進出して欲しい」ということだと思うので、生産の現場で苦労した何人かの体験談を基にお話をします。
     その前に、当社のアフリカでの事業について説明させて下さい。当社は、アフリカに出資している会社が8 社あり、これらは全て自動車の販売会社です。8 社合計で約2,500人を雇用し、ケニアとア
    ンゴラで、500 ~ 600 名、他の数社は150~ 200名規模の雇用です。特徴としては、主にトヨタという強いブランドの商材を扱い、かつ販売が中心なので、場所はその国の首都など大都市に拠点があ
    り、結果、その国では比較的人材を集めやすい状況にあります。
     この4月にケニアとアンゴラから帰任した駐在員に、採用方法を聞いたところでは、日本と同じ様に一流の新聞紙に広告を出したり、人材派遣系の会社に依頼したり、時にはヘッドハンティングもす
    るなど、日本とあまり変わらない採用活動を実施しているようです。逆に、困っていることは優秀な人の引き留めで、転職でステップアップを図る人への対策が、人事上の主要テーマだそうです。
     当社も、対策としてアフリカでゼネラルマネージャーまで昇格した人を、次に中南米の社長に据えるなどのキャリアステップを用意して、グローバルなジョブローテーションを実施しています。一方、車のサービス技術者は、職業訓練校等の卒業生を採用しますが、企業内訓練を1年はやらないと駄目です。何故かというと、まず訓練校のトレーニング用の機材は治具にしても、1・2 世代前のもので、それが使えると言われても、日系企業が求めるサービスレベルを出すための機材を扱えるレベルにはないので、もう一度一から教え直さなければいけません。また、訓練校で教える教育者の技量レベルが低いということもあり、教育者の教育をする優先度のほうが高いのではないか?という意見も聞かれました。
     次に、南ア・トヨタ自動車の生産拠点で社員教育に携わり、実際に苦労した人の話をします。南アを輸出拠点とする為に、輸出に耐えられる品質の工場にするミッションを帯びて、4年間駐在したそ
    の人は、今まで品質が出なかったのは何故だろうと考えたそうです。
     新車を納入する際に、物流の途中で汚れ、泥だらけになった車を、そのまま納車してしまう事もあったそうです。つまり、車を持ったことがない人が車を作る工場で働くわけで、車を買う人の気持
    ちも分からず、車を買うということが、どういう意味を持つのか分からないわけです。教育は、そう言ったしつけのレベルから見直すところからスタートしたという話でした。やった事は、まずは職場環境を少し良くすること、例えばキャンティーンで出す料理に一手間加えて、冷たいスープしか知らない人達に温かいスープが美味しいことを分からせ、自分が現場の人間を大切にしているという姿勢を目に見える形で実行する様にしたそうです。従来、南アではマネージメントは白人で、労働者は黒人です。黒人はマネージメントの世界には全く縁がないと思っていると人達で、労働組合はあっても、白人のマネージメント層と話をして問題を解決しようということを知りません。何かあればストやデモを起こすことしか知らず一体感も出ません。心掛けたのはマネージメントと現場の間に常に自分が入り、不満があればデモをするのではなく、まず自分に話しをさせ、対話を続ける努力をしたそうです。又、良い物とは何かを全然知らない人達なので、工場の現場で、整理された状態を知らない人に整理整頓と言っても難しく、整理された状態とはどういう状態なのかから説明するなど、「マイナスからのスタートという覚悟を持ってやらなければいけなかった」というふうに言っていました。このようにアフリカでは、公的教育の分野に相当する部分が未成熟なため、教育の相当な部分を企業自身で実施することになります。「出口のある職業訓練」と言ってもアフリカ側が考える出口と、我々が考える出口のレベルが相当異なる可能性があり、この点の意識あわせは重要だと思います。
     あと、当時の特殊な事情として、人を育てても、HIVで亡くなるのが相当数いたことも上げられました。結局、コストを掛けてHIVの啓蒙活動をやらざるを得なかったそうです。この部分は国とか
    公的な機関の方でしっかり教育をして戴きたいと思います。
     アジアの場合、国として産業を残そう、製造業というのはこういうものだという理解が国自体にもあって、ここは国がやるべきだということを理解してくれるレベルなので、アフリカとは大きな違いがあります。又、日本はマネージメントとボトム層との距離が近く、教育レベルもそろっている為、日本人の常識では理解しがたいが、アジアの人は今のアフリカに近い状況を経験しており、人材育成経験もあるので、その知恵を取り込むべきだと思っています。当社も、最近フランス系商社を買収したので、フランス語圏のアフリカで人を育てるノウハウを逆輸入したいと考えています。
     最後に、もの作りをやる時に鉄道などの大量輸送手段が無いことは、物流コストが割高になる要因です。先ほどのOne Stop Border Postの話ではかなり改善される様ですけれども、インフラ整備も戦略的にやっていかないと、なかなかアフリカの人たちが希望する様な産業基盤の多角化は出来ません。現在、JICAさんと、どこでどう協業できるかという話をさせて戴いており、何か1つモデルケースが出来たらよいと思っています。
     
  • 3. フォーラムの討議
  • モデレーター・片岡教授
  •  今日のテーマは「アフリカの民間セクターとビジネスチャンス」ですが、官民連携というのは非常にアフリカでは大事なので、民間企業の方々とJICA乾部長及び政府関係の方々と、如何に力を合わせてアフリカへの民間セクター支援、或いは日本の民間セクターを如何やってアフリカの開発に活用させていくかという事の議論をしたいと思います。
     TICAD Vは20 年やっていますが、アフリカが注目される様になって行われるTICAD は2度目であろうかと思います。2005 年頃からアフリカ争奪戦が繰り広げられ、各国がアフリカに目を向けるようになりました。特に2005 年以降アフリカの経済成長率が上がって、2013年のIMF統計では6% 位になっています。実際にナイジェリアは90年代にはGNPパーキャピタが600$ぐらいで、今では2,000$ぐらいになっている中、日本は出遅れ、特に民間投資が出遅れているといわれています。2010 年の統計でも世界水準では貿易投資の方がODAの額を上回っていますが、未だに日アフリカ関係はODAがベースです。アフリカ外交団もODA ベースのリレーションシップを変えろと声高に訴えています。というわけでTICAD Vの重要なテーマの一つとなる民間セクター支援という非常にタイムリーな議論を、ここで忌憚なきご意見を伺いながら進めていきたいと思います。
     今回は事前アンケートをさせて戴いたのですが、最も大きな点は、官にはインフラ整備をまずしっかりやって戴いて、その上で民が進出できるような環境を整えてほしいという事です。更にアフリカに対してもいろいろな非関税障壁などありますから、官のほうが改善するように求めていくのが良いのではないでしょうか。先ずは、JICA の乾部長と豊田通商の羽田さんへのコメントあるいはQ&Aを踏まえながら討議をしていきたいと思います。
  • 広瀬 晴子
    前モロッコ大使
  •  南アでは自動車の生産から入ったのでしょうか。モロッコの場合、部品の製造を始めて、矢崎総業とか住友電工がワイヤーハーネスで成功して、両社合わせて2 万人ぐらいの雇用を生んでいます。工場の数は、住友電工で5 つ、矢崎で3 つです。工場には「5S」なんかが貼ってあって職員を訓練するというところは日本と同じで、もう歩き方からピシピシ歩けというようなことをやっています。一方で職員を大切にし彼らの為にクーラーを入れ、食堂があって、羊犠牲祭のときにはバスで田舎に帰したり、職員は非常に満足して働いています。その成功の上に、ルノー・日産が工場を建設する事を決定しました。ワイヤーハーネスのような単純労働者も質のいい人がいます。問題はメンタリティーにあって、特に若い男子はあまり仕事をしないので、田舎出身の若い女性を使っています。しかし、熟練工は足りません。そこの教育を日本に期待されており大きな課題になっています。私は、北はモロッコ・チュニジア・エジプトで、南は南ア、この両方でアフリカの経済開発を引っ張っていこうじゃないかと言っていました。南アでは部品など如何したのか。まず自動車生産から始めたのでしょうか。
  • 藤岡 直樹
    トヨタ自動車(株)アフリカ部第2 営業室
  •  弊社の場合は比較的歴史が古く、1960年代から組立てをやっていた地場の会社に出資し、そのシェアを広げ、今は100%となっています。従って、当時から車両製造は始まっていて、資本を入れる中で徐々にアフリカを輸出拠点に変えていき、品質、コスト競争力を追求する中で、日系の部品メーカーに後追いで出てもらいました。それまでは、自国内生産だったので、地場にあるローカルサプライヤーを使っていました。
  • モデレーター
  •  議論を深めたいので、いろんな方に発言を求めます。自動車の製造過程の話になっていますが、商社の方で何かコメントなどありますか。或いは何か補足的な説明はありますか。
  • 羽田 裕豊田通商(株)渉外広報部
    渉外グループリーダー
  •  アフリカで自動車の生産拠点を考える場合、まず、現在生産拠点がある南アをどう生かすか、から検討し、その後、新設という話になると思います。そういう意味では、これからすぐに別の場所に生産拠点を新設という話は、まだまだハードルが高いだろうなとは思います。各自動車メーカーはどこで何を造るかというのは、やはり部品を持ってくる港湾などのインフラとか、ある程度その国内・周辺国で売る台数が見込めないと難しく、試行錯誤の積み重ねだと思います。私どももモロッコをトヨタに紹介しようと考えたのですが、国内向けだけでは量が見込めないので見送りました。
  • モデレーター
  •  他に豊田通商ならびにJICAへの質問、コメントはおありですか。無ければ、名簿の順番で、三菱商事の宇野様はいらっしゃいますか。
  • 宇野 博史三菱商事(株)企画業務部
    欧阿中東CISチーム
  •  企業の行動としてアフリカは重要なので長期的取組みが必要だろうという前提ではあるのですが、「小さく生んで大きく育てる」ということがアフリカでできるのかどうか、今の自動車メーカーの例ではある程度の覚悟をもって資本を投入していく、人を投入していく、最初は当然もうからないというビジネスになると思いますが、覚悟を決めて一気にいくという事がいいのか、それとも、弊社でも小さくやっても何時までも育たず、人手だけ掛る失敗例はありますが、アフリカはどっちに向かっていったら宜しいとお考えでしょうか。
  • 乾 英二
    JICAアフリカ部長
  •  アフリカは2000 年の後半から経済成長をしている大陸であり、地下資源も豊かで、人口の伸びも大きい、その中で日本が行かないのは日本の経済にとっては決してプラスではないと思います。小さくいくか、大きくいくかという議論の時に、商社は資源など割と大きなことを考えるし、中小企業はワイシャツの工場を作り、佐藤さんがケニアでマカデミアナッツを30 年以上にわたり育てています。従って、商社が考える小さいインプットもアフリカの国にとっては大きいインプットだったりするので、「小さく生んで大きく育てる」ことは可能かという質問には、可能な部分と可能ではない部分があるという答えになると思います。今中国人は大陸に100万人以上いて、大きなインプットが浸透している中で、日本にとって優位性の高い分野、または今から取っていける分野はどこなのか、戦略的に考えていくことが重要ではないでしょうか。
     もう1つ重要なことは、バラバラにやるのではなく、1つの国なりエリアを決め、相互乗り入れとか、1つの拠点として開発するという戦略が必要なのではないでしょうか。
  • 野口 勝(株)国際開発アソシエイツ
     
    パーマネント・アソシエイツ
  •  「大きく入って小さく育てる」これはものすごく重要なことだと思います。南アでは昔はlocalcontent が高くて出来上がった車がすぐボロになるということがありました。ところがトヨタさんは大きく入ってきたわけで、それはマーケットがあるからです。ケニアでもナイロビに行くとトヨタシティといってもよいくらいにトヨタの車しか走っていません。20 年前とは全然違います。ですから大きく入って小さく育てます。小さく育てるというのは、国民車を造りたいという要請などに対応するものです。自動車というのは裾野の広い産業なので、部品をタイから持ってくるのもよいが、同時に現地で作るという視点に立って、小さな物でもよいから作りそれをはめ込んでいく。そうすればあの車は自分たちが作ったのだ、参画しているのだという意識が、アフリカを変えていくきっかけになると思います。戦後の日本の自動車産業は経産省の指導も有りこれだけ伸びたのだから、今度はアフリカに入って単に組み立てるだけではなく、「大きく入って小さく育てていく」ということをお願いしたいと思います。
  • モデレーター
  •  せっかくですから法人会員の方にコメントあるいは質問などを伺いたいと思います。住友商事の岩倉さん、お願致します。
  • 岩倉 真樹住友商事(株)地域総括部
     
    部長代理 市場開発チーム
  •  「小さく生んで大きく」という話ですが、会社として一度議論したことがあります。経済データ、人口の規模などで分析すると、たぶん他の企業でも同じ絵になるよねという結論しか出ず、どう豊田通商らしさを出すかがポイントでした。そうすると大きく生んで大きく育てる戦略を取れる国は、まだアフリカにはないのが実態だということになります。インドとか中国の場合「小さく始めて大きく育てよう」と考える企業はあまりなくて、ある程度の規模でボンという話だと思います。アフリカは54に細切れになっているのがネックだと言うことで、外務省や経産省には、地域連携、面でという話をしています。
     車は一台100〜200万円で、部品にすると数万、数千円という単位であり、利益額は車であれば何十万ですから、その国だけで何百台売れれば利益が出るという計算が出来ます。部品にばらすと、今
    度は逆に五万台とか十万台分の部品でないとペイしないのが分かります。国が小さいので、国同士が商圏としての広がりとしてとらえて、例えばここは金属加工業が非常に古くから盛んなので、ここで排気ガスを出すためのパイプを作り、その数量は5カ国合わせて何万本というやり方になります。
  • モデレーター
  •  地域統合という観点では、1991年にアブジャ条約を結んでいて、1994年に発効し、2034年までにはアフリカ経済共同体を作る事になっています。各サブ・リージョナルの地域機構が纏まる形で2034年までには関税障壁を全部取っ払って大きな経済共同体を作るのですが、今は東アフリカ共同体のルワンダ・ブルンジ・ケニア・タンザニア・ウガンダが一番進んでおり、それでもまだ非関税障壁が多い状況です。ただ、会社をつくるときの登記など昔は3 週間から2カ月の処が、今は2 〜4日で出来るようになりました。ただ地域ごとに千差万別で行政府の問題とかアドミの問題というのは、政府の方で働き掛けないとなかなか難しいと思います。会員企業の商社の方で、丸紅の原島さん、お願いします。
  • 原島 梓丸紅(株)市場業務部
    課長補佐 欧阿中東チーム
  •  ここ数年アフリカの支店・出張所の数を増やしており、近年ではアンゴラのルアンダ、ガーナのアクラに開設したほか、今年度はモロッコのカサブランカにも出張所を開設しました。また、新規に中東・アフリカ支配人を置き、現地からの情報発信を強化する様にしています。現在、取組み中のものは、アンゴラの繊維プラントのリハビリや、砂糖・エタノール工場の新設などがあります。また、ナイジェリアのデルタ地域での発電所の建設などの他、トレードにも取り組んでいます。
     抱えている問題はほとんど他社の皆様と同じで、最近の事例では、アンゴラで労働ビザの発給実現までに2年間を要し、この間に関係者は都度ヨハネスブルグに出て、ビザを取り直して入国するというのを繰り返していました。ナイジェリアのデルタ地域では発電所の建設をやっていますが、治安上の問題で出張規制が出るなどで悩まされています。こういった部分でぜひ官の支援が欲しいと思います。
     どの国に集中するのかという点では、マトリックスを作って考えていますが、やはり南ア、ナイジェリア、といった所が出てきています。他企業も同じだろうという事で、違う国はないかと必死に考えているところです。
     質問ですが、先ほどのJICAの事業の中で、民間連携ボランティア制度があり、企業から協力隊への社員派遣がありますが、もう少し詳しくご紹介戴けませんでしょうか。
  • 乾 英二
    国際協力機構・アフリカ部長
  •  この制度自体は非常に新しく、まだアジアで数例です。基本的には青年海外協力隊に所属いただき、例えばベトナムに工場進出を検討していて事前にベトナムの状況を把握したい場合、現地の公的な機関に入って現地政府の仕事をして戴きます。その中で言語を習得し、現地の仕事の進め方や商習慣を経験して帰り、企業の活動に役立ててもらうという様なことを想定しています。
  • 山崎 正則
    JICAアフリカ部 計画・TICAD 推進課
  •  従来の制度ではJICA側で要請を取付けて、要請の中から企業が関心を持つ所に社内派遣をする方式でしたが、新しく導入された民間連携ボランティア制度では、企業のニーズを伺いながら一つ一つオーダーメードに近い形で協力隊派遣を行っています。
  • 乾 英二
    JICAアフリカ部長
  •  アフリカにはもう40 年以上青年海外協力隊を出していて、評判が良い。今アフリカで働く3割以上の日本人がボランティア事業、特に協力隊経験者で、その国を理解した人が企業活動を行っています。この趣旨の中で我々もお手伝いしたいということです。
  • モデレーター
  •   豊田通商の羽田さんはお時間が無いという事なので、最後に政府にこれだけはやって欲しいとか、アフリカ側に伝えたい事があれば一言だけお願い致します。
  • 羽田 裕豊田通商(株)渉外広報部
    渉外グループリーダー
  •  アフリカに出て行く時に、国という単位ではなく面で市場を捉えられれば、出やすいと考えます。資源ポートフォリオは豊田通商の弱い所なので、逆にアフリカを市場として見たいということです。成長性はあるのですが、小粒な所をまとめる事を政府から支援してもらうことが出来ればありがたい。複数の国が、地域としてまとまるということは、その地域の国家間の治安が安定していないとできないことですし、政治的にも安定がないとお互いが仲良くなることはあり得ないと思いますので、そういった所の支援や対話を、引き続きお願いしたいというのが一番言いたいことです。
  • モデレーター
  •  会員企業から、いすゞ自動車の吉川さん、お願いします。
  • 吉川 龍一いすゞ自動車(株)海外営業第2部
    アフリカグループ
  •  アフリカに関してはエジプトと南アに工場を持っていて、運営のノウハウを持つGMとの協業でやっているといった状況です。ただ、今後アフリカの発展が見込めるので、よりアフリカに注力していかなければいけないという意識でおります。問題はビザの発給とか、事務所開設の登記関係のノウハウがなく時間が掛ってしまう事が頻発しており、官のサポートがあればと言うのはよく言われます。
     又、トヨタさん程、大きくないので、部品メーカーを連れて行くのが難しく、現地を使わざるを得ません。その意味で現地の部品メーカーを育てるとか、能力のある所を紹介するなどのサポートがあれば有難いと思っています。
  • モデレーター
  •  ビザの発給とか登記の問題、一般的なその様な障壁は、外交団に会う度に言っていかないと駄目なのかもしれないと思います。引き続き、双日の福居さんお願い致します。
  • 福居 通彦双日(株)海外業務部
    中東・アフリカデスクリーダー
  •  私はアフリカビジネス開発に係って6年になりますが、なかなか前に進まずに苦悩しています。例えば某国でプラント建設を受注しましたが、この1年以上契約が発効しておりません。これはその途中に大統領選あるいは議会選挙があり政治、行政が止まったのですが、一事が万事であらゆることがなかなか進みません。モザンビークではチップの工場を建設し、昨年の10月から生産を開始しましたが、こちらも港の問題や税金の問題、いろんな問題をたくさん抱えて日本政府や大使館の協力を戴いて解決を図っていますが、なかなか前に進ず、支援策の底上げが必要と感じます。
     企業は短いスパンで利益を追いかける事が多く、長期的な観点からの取り組みは難しいが、市場を絞り集中的に継続してやって行くことで解決出来るのではないかと感じています。
  • モデレーター
  •  東芝の藤巻室長、一言、何かお願いします。
  • 藤巻 義恭
    (株)東芝 国際渉外室室長
  •  私はアフリカでのビジネス経験が無いので、東南アジアの経験でお話しますが、新興国の一つの成長パターンとして、人口が都会に集中して都市化が急激に始まると、渋滞が激しくなり地下鉄やMRTのビジネスが出るとか、あるいは高層アパートやビルの為にエレベーターあるいは自家発電というビジネスが出てきます。アジアの場合、この様な成長パターンがあるのですが、アフリカは如何でしょうか。これは質問ですが、アフリカは成長するといわれていますが成長パターンというのはアジアの様に都市化という様な形を取るのか、あるいは全く違う形を取るのか、教えて戴ければと思います。
  • モデレーター
  •  いろんな意見があると思いますが、堀内大使、如何でしょうか。
  • 堀内 伸介アフリカ協会副会長・
    元ケニア大使
  •  アフリカの成長は資源はもちろんなのですが、人口増加率が2.5 ~ 2.9%とも言われていて非常に早く、都市化も進んでいます。1950 年にアフリカには100 万人都市は一つもなかったですが、今は30以上あります。その内の半分以上がmultimillionで、ナイロビなど30 年前はほんの100万あるかないかでしたが今は500 万です。この様に都市化がものすごく早く進んでいて、人口成長と特に都市の中間層が成長の原動力だということがいわれているぐらいで、フランスではそういうところに目を付けているというレポートも出ています。
     ですから都市化はすごいし、同時にすごい建設ブームで、昔は10年経っても町並みはあまり変わらず迷子になることはなかったのですが、今はもう5年で町並みがすっかり変わってしまうほどの建設
    ブームです。
  • モデレーター
  •  それでは、AfDBの玉川所長にお願いします。
  • 玉川 雅之アフリカ開発銀行
    アジア代表東京事務所長
  •  今アフリカは非常に大きな変化を遂げており、ビジネスチャンスが大きく伸びていると確信し、それをいろんな所に伝えているところです。経産省さんの方も、いろいろなリードを取っておられてBOP研究会というのがあります。若手起業家や青年協力隊のOBも含めて新興起業家の人達が、今どういうマーケットに入るかなど研究会をおこない、その実態が明らかになってきました。昨年9月からアフリカビジネス研究会を始め、結構面白い事をやっている会社があり、ヤマハ発動機とか、豊田通商が2,000 億円出してアフリカ全部に拠点を置ける会社になったとか、日立建機がザンビアで銅鉱山に鉱山機械の納入を始めているとか、味の素がナイジェリアやコートジボワールでリパック工場を作ったとか、驚く様な面白いケースが沢山あり、意外と皆さんが思っているよりも、アフリカに対してビジネスをやっていることが分かります。商社の方は1回引いたのですが、最近これだけブームになったのでやり始めています。三井物産がモザンビークで大きな石油をやるとか、住友商事がアンバトビーをやるとか、いろんな形で新たな将来に向けてのビジネスが開けています。メーカーの方も、トヨタなどは南アに相当な拠点を築き、ブリヂストンは工場やって現地を変えたり、関西ペイントはアフリカを拠点に世界一のペイント企業になる為に現地企業を買収しました。JTですら南スーダンでアフリカNo.3 のたばこ会社を300億円で買収して、これをNo.2 にしようと目指しているとか、さまざまな例が起っています。
     それで、我々はアフリカで今どれだけの日本企業がビジネスをやっているか調査をして、今日までに350 社のリストが出来上がってきました。これは去年設立されたアフリカビジネスパートナーズ社に依頼して、外務省・JETRO・JICAの協力を得て作業したものです。TICAD までに公表リストとして発表し、いろんなビジネスモデルがアフリカにあるということを皆さんに知って戴きたいと考えてい
    ます。中国に比べてあまり目立った動きではないのですが、さすが日本の企業はちゃんとやっているということがお判り戴けると思います。
     先ほどの話しで、アフリカは国が多くてどの国にアプローチをしたらいいのか分からないという議論と、今の発展を本当にまともな発展と考えて良いのかよく分からないという2 つの議論がありました。インドで10 年ぐらい前に起こっていたことが、現在アフリカで起こりつつあり、ちょうど10億人ぐらいの大陸で都市化も進みつつあり、ガバナンスも若干改善されてきて、しかもインドより資
    源は豊富にあり、面積は10 倍あって農業とかのpossibilityもあります。インドも考えてみると80 年代の終わりまでは「絶望の大陸」と言われて、ほとんど開発の余地がないと言っていたのが、債務危
    機が起きて冷戦の後に漸く自由化政策が進んで現在の様になったという背景があります。アフリカの類似点は2005 年の債務危機でお金を借りられなくなって、そこから大きく変化すると同時に資源
    の発展がありました。他には、ITも貧者のIT である携帯が使われてビジネスが非常にしやすくなっているなど、かなり根本的な変化が起こっているのではないでしょうか。
     最後に国の問題にしても、政府はあるがせいぜい州政府とか県政府みたいで、国民の経済活動はほとんど国境と関係なく面的に広がっています。その意味では恐らくインドだって、日本から進出し
    ている企業が各州を全部知っていて州ごとの制度が分かっているわけではありませんが、そこでもカルカッタ、ボンベイとか、さまざまなところに拠点を持って進出しています。アフリカは恐らくそういうかたちで日本企業の拠点となる所が南ア以外にもナイロビとか、コートジボワール、もしも2 億人のマーケットを攻めたいのであったらラゴスに入っていくとかが出来ると思います。幾つか今後の拠点となるべき都市などの要件が整う様になって、そういうさまざまな変化が起こっていることを示したいと思っていますし、そのベースで官民連携の議論も行って欲しいと考えています。
  • モデレーター
  •  せっかくですから経産省から何か一言お願いします。
  • 松本 敬一経済産業省
    通商政策局中東アフリカ課課長補佐
  •  今所長からご紹介戴いたBOP 研究会とビジネス研究会の2 つをやっていて、早晩報告書が出るかと思います。アフリカに対するアプローチは徐々にではありますが、増えてきていると実感しており、相談件数も相当増えてきています。実際にはどれだけ進出が実現出来ているか確認は取れていませんが、以前に比べれば関心も高まっているかなと思っています。その一つの例が、TICAD Vの公式サイドイベントとして経産省とJETROが共同で「アフリカン・フェア」というのを開催しますが、5年前のTICAD Ⅳでは日本企業コーナーは11社で地雷除去機やトラクター、あとは商社関係が中心だったのですが、今回は75 社と増えて業種もさまざまです。特に多いのが水関係、環境関係が中心で、75社を超える企業が参加するという状況になっています。この機会にビジネスにつなげたいという思惑も多分にあるのだろうと思います。我々もこの機会を通じて、どんどんアフリカに展開していって戴ける様、支援していきたいと思っています。
  • モデレーター
  •  時間もきましたので、まとめに入ります。いろんなさまざまな問題を抱えていて法制度の整備、優秀な人材の育成、非関税障壁、インフラ整備といった国内要因はありますが、資源があるところには投資が入っていきます。投資の後に貿易がつながりますから、資源業界がどこを見ているのかというのがアフリカ戦略の鍵の一つでもあります。
     中国、インド、特に欧米の資源企業がどこを見ているかというのも鍵ですが、欧米企業あるいはアラブ・マレーシア・シンガポールといった企業と一緒に出ていくというのもいいのかなと思います。例えば、三井なんかは確かシンガポールで子会社をつくって、シンガポールからヨハネスブルグ・ガボン・リーブルビルとかに行っているのもあり、最近では特にマレーシア、シンガポールはアフリカに投資をかなり強化して国家戦略としてやるようになってきています。
     是非、こういったTICAD Vの機会を捉えて、法制度整備支援とかはアフリカ外交団にやってもらわなければいけないのですが、日本は官民連携でインフラ整備を含めさまざまな企業が参加出来る道筋
    を作っていく事ができればと思います。そして将来的には地域統合が更に強化されれば進出しやすくなるのではないでしょうか。有難う御座いました。
    記録者( 一社)アフリカ協会 淺野 昌宏

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