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- 2025年版アフリカの経済見通し:アフリカの資本を開発により良く役立てるために
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- 【月刊アフリカニュースNo.152掲載】
- 【月刊アフリカニュースNo.152掲載】
- “African Economic Outlook 2025: Making Africa’s Capital Work Better for
Africa’s Development”アフリカ開発銀行、2025年5月
https://www.afdb.org/en/knowledge/publications/african-economic-outlook
アフリカ開発銀行が5月末の年次総会に合わせて毎年発表している経済見通し。8月末で退任するアデシナ現総裁の下での最後の報告となる。主な論点は以下のとおり。
⚫2024年のアフリカの経済成長は前年の3.0%から3.3%へとやや改善したが、複数のショックと全世界的な不確実性により、成長は脆弱なままだ。米国はアフリカの貿易(輸出入総額)の5%ではあるが、トランプ政権が発表した一律10%の関税や米中の貿易政策は、不確実性を増す。
⚫2025年の経済成長予測は3.9%、2026年は4.0%で、それぞれ過去の予測から下方修正された。この成長率は世界平均より高いが、1人あたりでは微増に過ぎない。地域的には、経済多角化が進み、工業製品の域内貿易が多い東アフリカの成長率が最も高い。最も低いのは南部アフリカ。
⚫2023年にアフリカに流入した海外直接投資、ポートフォリオ投資、ODA、海外送金の総額は2,046億ドルで、前年の減少基調からプラスに転じた。しかし海外直接投資は3.4%、ODAは3%減少した。ODAの40%は米国からで、2025年のODA受取額は2023年比で7%減少すると予測される。
⚫短期的な政策としてはマクロ経済の安定化が必要だ。債務再編は、ガーナやザンビアの例に見るように、迅速に行う必要がある。また国内資金の動員により、援助依存を減らすことも重要だ。中長期的には、アフリカ経済の競争力を増すための構造改革が必要だ。
⚫域外貿易とグローバルなバリューチェーンに依存するアフリカにとって貿易戦争の激化は脆弱性を増すが、逆に域内貿易の促進と経済多角化の好機でもある。
⚫豊富な資源に恵まれながら、アフリカ政府の収入のGDP比は他地域に比べ低い。またODAの減少は今後も続くと予想される。しかし賢明な政策が採用されれば、アフリカは1.43兆ドルの収入増を確保できる。
⚫収入増の方策としては、デジタル技術の活用による税務行政改善、ブルー経済への投資による観光収入、鉱物資源収入のオーナーシップ強化、海外送金コストの減によるフォーマル化、インフォーマル経済のフォーマル化、などがある。
⚫収入増に加えて必要なのは、その効率的な支出、そしてキャピタルフライトなどの流出防止だ。そのためには人的資本の強化や、組織や制度の改善、さらに汚職防止などガバナンスの改善も必要となる。
- 2025年4月版世界経済の見通し:政策変更の中での重要な転換点
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- 【月刊アフリカニュースNo.151掲載】
- 【月刊アフリカニュースNo.151掲載】
- “World Economic Outlook, April 2025: A Critical Juncture amid Policy Shifts”
国際通貨基金(IMF)、 2025年4月https://www.imf.org/en/Publications/WEO/Issues/2025/04/22/world-economic-outlook-april-2025
IMFは年2回(4月と10月)世界経済の見通し報告書を発表し、1月及び7月には見直しを行っている。2025年4月版では、経済見通しとともに、世界の高齢化が経済にもたらす影響、及び移民政策の変更が世界に及ぼす影響についてとり上げている。主な論点は以下のとおり。
2025年1月までは、世界経済は緩慢だが安定して推移すると予測されていたが、米国トランプ政権による過去1世紀の間に例のない高い関税率の適用と、各国の対抗措置により、経済成長は大きく影響を受ける。しかし予測可能性が低いため、この報告書では従来のベースラインではなく、「参考見通し」を提示する。
貿易戦争と予測不能性の高まりで、経済活動の鈍化が予想される。世界経済の成長率は2.8%(2025年)、3.0%(2026年)となり、1月の予測値3.3%から低下するだろう。インフレ抑制もペースダウンするだろう。
貿易戦争は中長期的な経済成長を低下させる一方、新しいショックに備える政策余地が少なくなるだろう。国際金融市場の環境が悪化する中、中所得国の大国は、債務返済能力を試されるだろう。低所得国は外国援助の減少により、債務状況の悪化や生活環境の悪化の恐れがある。
各国は、安定的で予測可能な貿易環境づくりや債務再編のために、建設的に協働する必要がある。また国内政策も重要で、中央銀行には価格安定のための施策や為替変動への対応、財政担当官庁には、債務持続性管理と必要な支出とのバランスが求められる。
出生率の低下と平均寿命の延伸は人口の年齢構成を変え、今世紀末には世界の平均年齢は2020年比で11歳高くなると予測される。シルバー経済の到来による労働人口の減少は、経済成長の低下や公共支出の圧迫という暗い未来を想像させる。しかし、平均寿命の延伸は、健康年齢の延伸を伴っている。各国は熟年労働者の健康の増進、生涯を通じてのスキルアップの支援、女性の労働市場への参入により、労働力供給を維持することが可能だ。また国際金融市場との統合や技術革新も必要だ。
2024年、世界の合法的な移民と難民は3.04億人、総人口の3.7%に達した。国際的な労働力の移動先は先進国が大きな割合を占めるが、今世紀には中所得国と低所得国間の移動や、同一地域内の移動も増えている。A国がB国に対する移民政策を強化すると、B国移民は他の国に流れるが、C国から難民が流入することもある。国際協力が成り立てば、移民や難民の受入れコストを複数国が平等に分担できる。また移民や難民を国内のフォーマル経済に統合することが、受入国の利益となる。
- 「2024年版国際債務報告」
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- 【月刊アフリカニュースNo.150掲載】
- 【月刊アフリカニュースNo.150掲載】
- International Debt Report 2024”
世界銀行グループ、 2025年1月
https://www.worldbank.org/en/programs/debt-statistics/idr/products
世界銀行グループが、同行の債務者報告システムに報告を行っている中・低所得国(世銀の融資対象国)の債務状況について毎年発行している報告書。2024年版では、2023年末の債務の状況が論じられており、総論及び国別のデータからなる。主な論点は以下のとおり。
⚫COVID19は過去のものとなったが、その影響は中・低所得国、とりわけ最貧国に強く残っている。2023年末の中・低所得国の対外債務残高は前年から2.4%上昇し、記録的な8.8兆ドルとなった。その27%を占める中国の対外債務は前年比1.1%減の2.4兆ドルだった。
⚫全ての中・低所得国の債務返済(元本と金利支払い)コストは1.4兆ドルとなり、中国を除くと9,711億ドルで史上最高となった。その原因は過去最高の債務額、過去20年間で最高の金利、対米ドルの通貨下落である。
⚫COVID19の開始以来、債権者の構成が大きく変わった。民間セクターが後退し、世銀やIMFなど多国間金融機関の占める割合がパンデミック前から4%増の15%となった。中国を除く中・低所得の民間債権者への純債務は138億ドルのマイナス(債務支払い額が債務受取額を上回る)となった。(注:中国の対外債務の90%は民間資金)
⚫一方、中国を除く中・低所得国の国民総所得(GNI)に占める債務比率は34.4%で前年とほぼ同様だった。それはドルベースでのGNIが6.3%増加したからだ。しかし低所得国の対GNI債務比率は40.6%だった。パンデミックはこれらの国に大きな打撃を与え、債務返済は社会サービス、インフラ整備など他の重要な支出を圧迫し、経済成長を妨げている。
⚫ポジティブな側面としては、中・低所得国の2024年の経済成長が4.2%と好調なことだ。しかし武力紛争の激化、貿易の細分化、世界的インフレの継続、世界的なリスク回避の傾向、主要国である中国などの経済成長の鈍化、などのリスクもある。
⚫このため、中・低所得国の債務のレベルや傾向を把握することがこれまで以上に重要になっている。世銀は他の国際機関、債務・債権国政府、学術界などと、中・低所得国の債務の透明性を高めるために協力している。
- 2025年版世界幸福度報告
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- 【月刊アフリカニュースNo.150掲載】
- 【月刊アフリカニュースNo.150掲載】
- World Happiness Report 2025”
Wellbeing Research Centre, the University of Oxford、 2025年3月
https://worldhappiness.report/
オックスフォード大学Wellbeing研究所が、ギャロップ社及び国連持続的開発ソリューションネットワークとの協力により2012年から発表している報告書。ブータンが提案し、2011年に採択された国連総会決議「幸福:開発への包括的アプローチ」に触発されたもの。国連は2012年に3月20日を「世界幸福の日」と定めたため、毎年3月に報告が発表される。2025年版報告書は人々の幸福感に及ぼすケアのやりとりに焦点をあてている。主な論点は下記のとおり。(尚、’wellbeing’の適切な訳語はないが、「本人にとって良い状態」を指すとされる)
⚫ギャロップ社の調査によれば、1)人々は他人の善意について悲観的(たとえば落とした財布は、人々が考える以上に実際には戻ってくる)、2)人々のwellbeingは、他人の善意に対する情報を得ることによって上昇する、3)社会がより善意に満ちることによって最も便益を受けるのは、最も不幸な人々、4)善意は世界中でCOBID19期間中に増加し、そのまま維持されている。
⚫すべての社会グループに関し、誰かと食事をともにする方が、社会的なつながりが増し、幸福度が高まる。(米国人の4人に1人は孤食)。メキシコや欧州の例では、家族の人数が4名である時に、幸福度が最大となる。2023年に、世界の19%の青年が社会的支援を頼れる人がいないと回答した。青年期の早い段階での社会的つながりの形成は幸福度にとって重要だ。
⚫寄付、ボランティア活動、他人を手助けするなどの社会的行動が、絶望による自殺の軽減につながる。米国と韓国を除き自殺は低下傾向にあるが、男性及び60歳以上の高齢者に自殺が多い。
⚫幸福度や社会的信頼の低下が、規制のシステムに反対する投票に現れる。不幸な人々のうち、社会的信頼が低い人々は右派に、高い人々は左派に投票する傾向がある。
⚫費用対効果の高い寄付を行うことで、幸福度は増進する。
報告とともに、147か国を対象とした幸福度ランキングが発表される。ランク付けに使われる指標は、平等さ、社会の支援、1人あたりGDP、自由、寛大さ、汚職の認識、前向きな感情、否定的な感情、寄付の有無、ボランティア活動の有無、他人の手助けの有無。
上位を占めたのは北欧諸国。日本は55位で、順位を下げている主な要因は、寛大さ、寄付、ボランティア、他人への手助けの低さ。アフリカでの上位及び下位5か国の世界ランキングは以下のとおり。
- ロシアのウクライナ侵攻3周年での国連総会決議とアフリカの投票行動の変化
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- 【月刊アフリカニュースNo.149掲載】
- 【月刊アフリカニュースNo.149掲載】
- ウクライナの和平促進に向けた国連総会決議
2025年2月24日
https://news.un.org/en/story/2025/02/1160456
ロシアのウクライナ侵攻から3周年の2月24日、ウクライナが国連総会で発議し、欧州諸国が共同提案者となった決議案「ウクライナの包括的、公正、永続的な和平の促進」が賛成93票で可決された。侵攻開始直後の2022年3月2日には、「ロシアの侵攻を非難し、即時撤退を要求する決議案」が賛成143票で可決されたが、この時と比べ、アフリカの投票行動がどう変化したか、下表に示す。
アフリカの投票で特徴的なことの第一は、反対票が大幅に増加したことで、その約半数は軍事政権となりロシアの支援を受けているとされる国だ。第二は、賛成票が大幅に減少し、棄権票が増えたことである。この決議案は従来と異なり、米国がロシアとともに反対票を投じた(中国は棄権)が、その影響を無視することはできないだろう。
尚、米国は同時にロシア・ウクライナ両国の人名喪失を悼む「平和への道」決議案を提出し、93の賛成票で可決された。
- 2024年版民主主義指標:代表制民主主義のどこが問題なのか
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- 【月刊アフリカニュースNo.149掲載】
- 【月刊アフリカニュースNo.149掲載】
- “Democracy Index 2024: What’s wrong with representative democracy”
Economist Intelligence Unit (EIU)、 2025年2月
https://www.eiu.com/n/campaigns/democracy-index-2024/
英国のシンクタンクEIUが、165の国と2地域の民主主義の度合いを、1)選挙の過程と多党制、2)政府の機能、3)政治参加、4)政治文化、5)市民の自由、の観点から0点から10点まで点数づけを行うもの。点数に応じ、各国の政治体制を「完全民主主義」、「不完全民主主義」、「ハイブリッド政体」、「権威主義政体」に分類している。2024年版は代表制民主主義をテーマにしており、主な論点は以下のとおり。
⚫2007年に始まった民主主義の後退が続いている。2006年と比較すると、全体平均点数が5.52から2024年には5.17に落ち、民主的な国(完全民主主義と不完全民主主義の国)の数が79から71に減少した。逆に権威主義国家が55か国から60か国に増えた。
⚫調査によれば、民主主義の価値ついては世界的に認識されている。一方、現実の民主主義については高・中所得国を中心に国民の不満が高まっており、日本を含む12の高所得国における不満の度合いは、49%(2017年)から64%(2024年)に高まった。
⚫その理由の第一は政府に対する信頼の低下で、経済・社会的な格差が広がる中、富裕層の利益が優先されていると感じる国民が多い。2024年には70か国以上で選挙が行われたが、経済的な不満が与党への厳しい票に現れた。汚職が不平等を招くと考える人々も多い。
⚫第二の理由は、政治家の問題だ。政党が伝統的な支持基盤を失うとともに政治家がプロフェッショナル化して国民から離れたこと、政党間の政策の差異が縮小し選択の幅が狭まったこと、テクノクラート中心の政府が短期的問題の解決に注力し、長期的ビジョンを提示できないことだ。また市民が政治に参加する機会も限られている。
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⚫サブサハラ・アフリカの民主化指数は2024年も低下した。クーデターは1件も起こらなかったが、軍事政権の支配が続いている。2024年の選挙では、与党があらゆる手段で政権維持を図る例が多くみられたが、南アフリカの連立政権設立や、ボツワナ、ガーナ、モーリシャス、セネガルの平和的な政権交代は良い兆候だ。