第3回大使を囲む懇談会開催
- 小川駐ルワンダ大使を囲む懇談会
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4月23日午後、休暇帰国中の小川和也大使を迎え、日仏会館会議室において、ルワンダ情勢について伺う会を開催しました(会員企業等から出席者計21名)。まず小川大使から、虐殺後20年を迎える同国の最近の政治・経済・外交、日本による経済・技術協力等の概況についての説明があり、その中で同国は世銀による評価で、アフリカ第2位の投資環境を有するとされたことなども紹介されました。その後出席者から、ICT立国を目指す同国の経済面での現況、内陸国としてインド洋への出口をどこに求めるか、食糧自給状況、工業立地の可能性、エネルギー資源の開発状況、地方給水計画、日本への輸出、仏語よりも英語が使用される頻度が高いのか、などの質問・意見が出され、意見交換が行われました。
(担当委員:鈴木優梨子)
第2回大使を囲む懇談会開催
- 吉田駐モーリタニア大使を囲む懇談会
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4月14日(月)午後、日仏会館会議室において休暇のため一時帰国中の吉田潤大使を迎え、モーリタニアの近況について伺う会を開催しました(会員企業等から出席者計14名)。吉田大使から同国の最近の政治・経済・外交、日本による経済・技術協力等の概況についての説明があり、その後出席者より治安、社会情勢、外国からの資本導入状況、雇用、近隣国との関係、金融、包装業の現状、水産物市場、飲料水、若年層の雇用機会拡大の方途などについて活発な質疑が行われました。
(担当委員:鈴木優梨子)
第1回大使を囲む懇談会開催
新企画「大使を囲む懇談会」を開催する事となりました。一時帰国や帰任された大使にお時間を戴き、現地の最新の政治・経済状況などを伺い、併せて意見交換なども行う懇談会です。今回が第1回で駐マダガスカル細谷大使にお願い致しました。
- 細谷駐マダガスカル大使を囲む懇談会
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3月27日午後、日仏会館会議室において、休暇帰国中の細谷龍平大使を囲む懇談会を開催致しました(出席者:会員企業などから計17名)。まず細谷大使からマダガスカルの最近の政情、経済、対外関係、日本との関係などについて説明があり、次いで出席者から資源開発の現況、経済特区、農業政策と主な農産物、観光業、金融、エネルギー事情、仏語の使用度、インフラ整備、公共投資などについての質問が出され、活発な意見交換・質疑がなされました。また、駐マダガスカル大使館が兼轄しているモーリシャスとコモロについての質問や、これらの国と地理的に近いセイシェルとの比較などについての意見も出されました。今回は初めての試みでしたが、有意義であったと思われます。
(担当委員:鈴木優梨子)
安倍首相のアフリカ訪問に関する報告会・討論会 議事録
- ■日 時:2014年2月12日 18:00-20:00
- ■場 所:日仏会館ホール (渋谷区恵比寿3-9-25)
- ■主 催:一般社団法人アフリカ協会、公益財団法人日仏協会
- ■共 催:日仏経済交流会
- ■後 援:一般社団法人日本貿易会
- 開会の挨拶:松浦晃一郎アフリカ協会会長・日仏会館理事長
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今日は大勢の方に日仏会館においで戴きましてありがとうございます。主催者として、一言ごあいさつを申し上げます。安倍総理は、日本の総理として3度目の本格的なアフリカ訪問をされ、大成功を収められました。日本の総理が本格的にアフリカを訪れるのは、最初が2001年の森総理、2006年の小泉総理、そして今回が3度目です。
その森総理は、日本アフリカ連合議連の会長を長い間務められましたが、本日は、その後任の逢沢一郎先生に日本アフリカ連合議員連盟の会長としておいで戴き光栄に存じます。
それから、国会が長引いており未だ到着されておりませんが、自民党副幹事長の三原先生も長年アフリカに関心を持っておられます。私が外務省の経済協力局の政策課長をしている30年以上前から非常にアフリカに関心を持っておられ、アフリカの国をこまめに回っておられます。今回も安倍総理に随行されてアフリカを回られました。後ほどご挨拶を戴きたいと思っています。
今日は、事務方として全体を推進して戴いた外務省の岡村アフリカ部長、それからJICA、三菱商事のそれぞれの担当の方、全体の司会も兼ねて慶応大学の岡田先生においで戴いております。じっくりとアフリカの話を聞かせて戴きたいと思います。今日は本当に大勢の皆様においで戴きまして、有難う御座いました。
- 来賓の挨拶:逢沢一郎衆議院議員、日本アフリカ連合友好議員連盟会長
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日本AU議連の会長を務めております自由民主党衆議院議員の逢沢一郎で御座います。先般の安倍総理のアフリカ訪問について、識者の皆様方でしっかりと議論され、フォローアップを戴ける事は日AU議連の代表者として本当に嬉しく、心から感謝を申し上げます。
去年6月の5回目のTICADは大成功でした。それを受けて、1月に国会が始まる前でいろいろな難しい状況もありましたけれども、安倍総理自身に行きたいという強い気持ちがあり、我々の期待とぴったり一致し、コートジボワール、モザンビーク、エチオピアに行って戴いた訳です。特にエチオピアでのスピーチは歴史に残る素晴らしいスピーチでした。今日はそのコピーも用意されているとの事で、後のパネルディスカッションでも、いろいろな角度から議論が戴けようかと思います。
今までは主要先進国からの援助がなければ生きていけない、やっていけないというアフリカでありましたが、今や、総じて貿易や投資のパートナーとしてのアフリカに、大きく変わりつつある事が実感されるようになりました。オーナーシップがそれぞれの国で発揮され、日本を含めた主要先進国が上手にアフリカの飛躍をお手伝いすれば、将来のアフリカは今のASEANのような地域に変貌する可能性がある、それが少しずつ見えてきているのではないかと思います。資源がいろいろなところで見つかるというのは本当にすばらしいことですが、医療や保健の体制を同時に整えていくという事も忘れずに、アフリカ全体の未来を皆で作り上げていく手伝いをして行きたいと思います。
昨年のTICAD V以降やたらにアフリカのお客さんが増えており、嬉しい悲鳴ですが、アフリカが大きく動き出した、日本との関係が本当に近くなってきた事が日々の政治活動や、国会においても実感ができます。我々にとってもまさに歓迎すべき事で、是非皆様にも変わりゆくアフリカにしっかり向き合って戴き、それぞれの立場で知恵と力をお出し戴きますよう、日AU議連の立場から、お願い申し上げたいと思います。政界の中でもっともアフリカを愛し、アフリカのことをよく知っていらっしゃるのは議連幹事長の三原先生であり、三原先生を先頭に、中心にしながら、我々日AU議連もしっかり政府と一体となって努力してまいりたいと思います。今日は適切なタイミングに総理のアフリカ訪問をフォローアップして戴き、重ねて感謝を申し上げます。ありがとうございました。
- 来賓の挨拶:三原朝彦衆議院議員、自民党副幹事長長
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ご紹介いただきました三原です。安倍首相のミッションには、ここにいらっしゃる岡村アフリカ部長や、JICAの乾部長と一緒に行ってきたのですが、やはり総理大臣が行くとなると、30数社の上場一部企業の偉い人達が付いてくるわけです。なお且つ、コートジボワールでは近隣11か国の大統領がわずか2時間の会議にワッと集まってくるのですから、皆さんに税金を払って戴いて日本がこれほど発展したからこそ、今度はアフリカ諸国の人達が、なんとか我々を支えてほしいという夢と希望で集まって来られるのだと思い、なんだか僕もすごく良い気分になりました。あれだけ近隣の総理大臣や大統領が一堂に会すると、発言される事はやはり、「日本のようになりたいから、いろいろ教えてくれ」という事です。出来る事なら、僕らも本当に協力させて戴きたいと思いました。
エチオピアでの総理のスピーチは非常に印象的でした。「アフリカの人々、一人、ひとりが幸せにならないと世界の平和もあり得ないし、アフリカの安定もない」と語りかけられました。稀有壮大な大ぼら吹きではなく「、一人、ひとり」がちゃんと自分の足で立てるような、そんな社会づくりのために僕らは応援しますよ、本当に日本的なサポートだと思います。中国はつい先年まで日本の70倍くらいの民間投資があり、今100倍を超えているのではないでしょうか。日本はこれからです。民間投資をしながらもちゃんと横に広がっていき、技術移転をします。建物を建てるときには、皆さんご存知のように型枠、鉄筋、内装の人達がいります。我々は建物を建てるだけではなくて、そこで魚の釣り方を教えます。魚を食べてもらうのではなく釣り方を教えましょうという基本理念に立ち返ってやらなければいけないし、それが実は一番大切なことだと思っています。
これからも逢沢会長のもとで、国会が終われば日AU議連も毎年、特にこれから先は若手を送り出していって、我が国の立場や我が国の政治的なやり方、援助というものを伝播してもらうようにしていきたいと思っています。今日これからの話し合いも大いに頑張って戴いて、我々の至らざるところを教えてもらいたいと思っています。今後ともどうぞよろしくご支援をお願い致します。有難う御座いました。
- 講演:岡村善文 外務省アフリカ部長
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総理アフリカ訪問についてご報告をさせて戴きたいと思いますが、一番肝心なところを三原先生に言って戴いたので、私は細かいところからお話し致します。
首相訪問の背景
お手元に資料をお配りしております。まず、今回の総理のアフリカ訪問というのは単独で出てきた話ではなく、長いアフリカ外交の歴史を踏まえた上にできあがったものです。これに至るまでにいろいろな方が一生懸命、それぞれの分野で日本とアフリカの関係を力強く進めて来られて、昨年のTICAD Vに繋がり、大きな成功を見た訳です。政府と政府の関係だけではなく、日AU議連が三原先生を中心に、長年にわたってアフリカとの関係をこつこつと築いてきました。民間企業の方々も、歴史の紆余曲折はあっても、最近のアフリカの盛り上あがりに乗って行こうとしています。そしてNGOの方々も、こつこつと積み重ねてきたアフリカとの関係を背景に、TICAD Vという場で大きく謳いあげました。
今度の安倍総理の訪問はTICAD Vの場で総理が約束された事です。5年ごとにTICADがあり、5年ごとに30-40ヶ国のアフリカの首脳が日本にやってきていますが、日本の総理は2006年の小泉総理の訪問まで遡ります。8年間、総理はアフリカの地に全く足を踏み入れておらず、アフリカの側からバランスを欠いているとの意見がありました。それを受けて総理は、「TICADそのものをアフリカで開けという声もあるけれども、自分はそこまで待てない。早くアフリカに行きたい」と言って、大いに喝采を浴びました。半年後にそれをちゃんと実行した事で、アフリカからの評価は非常に高かったわけです。一方で安倍総理は、地球儀を俯瞰する外交という事を言っておられ、実際に地球儀の裏側まで行くという大きな視野での外交を象徴するアフリカ訪問でした。訪問国の選定
アフリカは54か国あり、総理の日程を最大限もらえても1週間です。この1週間の中で最終的に選んだ国がコートジボワールとモザンビークとエチオピアです。この選択については、コートジボワールはお前が大使をしていたから選んだのだろうと言われますが、決してそういったえこひいきではありません。フランス語圏の西アフリカにこれまで総理は行った事がありません。フランス語で距離的に遠く、心理的にも距離がありました。しかしながら、西アフリカには非常に力強い潜在性があり、是非行ってもらいたいと考えたからです。コートジボワールは、フランスが植民地時代に経済都市として作り上げてきたアビジャンを中核とする都市です。インフラもあるし、人もいるという背景があり、日本にとっての新天地です。そこを総理に見てもらおうという事でコートジボワールを選んだわけです。
2番目のモザンビークは、経済界、産業界がこぞって関心を示している国です。75年に独立し、その後すぐ内戦に巻き込まれ、内戦が終了したのが90年で、自衛隊もPKOでモザンビークに行っているくらいです。しかし内戦が終わると、ピタッと国内で抗争するのをやめました。とにかく選挙をやってちゃんと大統領をつないできています。しかし貧しいです。貧しい国にどうして日本の総理が行くかというと、モザンビークとタンザニアの国境近くの海の中に、大変多くの埋蔵量を誇る天然ガスが出て来た為です。
この埋蔵量は、日本が1年間に消費する天然ガスの20年分はあり、日本のエネルギー政策及び安全保障上大きな意味があるという事です。他にも、中部から非常に優良な石炭が出て、この粘結炭を押さえる事が日本の製鉄業にとって非常に大事なので、製鉄企業が出て行っています。また、モザンビークの北部は広大なサバンナで、そこを農業開発する事により、非常に大きな穀倉地帯になる可能性があります。日本は全く同じような開発をブラジルでやった事があり、今やその日本が手掛けた地域というのは膨大な穀倉地帯になっています。モザンビークでは、まさにビジネス、投資という事で、ここでは投資フォーラムを行ないました。
最後のエチオピアは、アフリカ各国の中では首都というふうに思われているところがあります。なぜかというと、アフリカ連合、AUの本部が置かれたのがエチオピアのアディスアベバです。ここで毎年AU総会が開かれ、立派な会議場があり、そこで総理に演説をしてもらうという事は、単にエチオピアに対して演説をするだけではなくアフリカ全土に対する演説になります。アフリカへの発信という事で、エチオピアを選びました。何処でも大歓迎
この3か国とも非常に大歓迎をしてくれました。これは見事なほどの大歓迎でして、例えばコートジボワールではアビジャン空港から街の中まで車で3~4キロ走らなければなりません。日本の旗が途切れた事はなく、ホテルに至るまで全部日本の旗が飾られていました。街の中では10階建てのビル全体が安倍総理の顔写真でカバーされているという、そんな準備までしてくれました。同じような準備はモザンビークもエチオピアもしてくれていました。それぞれ首脳会談をして、行事をした後は晩餐会です。この晩餐会では、膨大な数の人達を呼んで、国の名士達がみんな来て、歴代の大統領も皆来ています。国会議長、最高裁判所長官、主立った企業のトップまでみんな来ていました。
私は割とアフリカを知っているので、これくらいはやるだろうなと思っていたのですが、総理はじめ一行の皆さんは非常にびっくりしたと思います。コートジボワールは私が大使をやっていた関係でウワタラ大統領をよく知っており、半年前の国連総会の時耳打ちをして、安倍総理を何とか連れて行くようにするから、その暁には周りの何か国か呼んで欲しいという話をしました。3~4か国くらい来てくれれば格好が付くかなと思っていたのですが、ちょうどウワタラ大統領は、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の議長であり、その議長の資格で、全加盟国15か国に、「安倍総理が来られるのでこの日の夜皆さん集まりませんか」というレターを書いて送ってくれたのです。そうしたら驚いたことに、4か国を除いて全ての国が集まってきました。10か国集まって、コートジボワールの大統領を入れたら11人が、安倍総理が来るという事で集まってくれたという事になり、ミニECOWAS首脳会議が成立したのです。首脳会議にゲスト国として第三国が呼ばれるというのはある話なのですが、誰かが来るからといって、そこに皆が集まって首脳会議をやったというのは私も外交史上あまり聞いた事がありません。それはやはり安倍総理への期待感、人気が高いからです。それに加えて、つい半年前の横浜で皆総理と1対1で話をしましたから、人間関係があるわけです。だから、せっかく安倍総理が来るならという事で皆集まってきてくれたわけです。私もこの歓迎ぶりには非常に深く感動いたしました。オールジャパンでの成果
それからもうひとつは、大きなビジネスミッションを作り、総理と一緒に行けたという事で、これは大きな成果だと考えています。3か国とも日本の一流企業の、しかも会長、社長クラス、一番トップの人が皆さん政府専用機に一緒に乗り、総理に同行して回り、それぞれの大統領と会ったわけです。もちろん三原先生にも一緒にいて戴きました。とにかく我々はオールジャパンだ、単に政治関係だけではない、経済人も銀行マンも皆一緒にやるのだという感じで先方に迫りました。それはもちろんトップセールスの大きな強みです。同時に、日アフリカ関係を変えるインパクトのあるものでした。それぞれ3か国をトップ企業の会長、社長達が回りながら、拡大首脳会議という事で一緒にセッションをして、その後握手をして、写真に撮ります。恐らくこれらの会長、社長達は、こんなことがない限りアフリカには行かない人達でしょうが、総理が行く事で同行し、それぞれの大統領と握手し写真に納まります。そうすると、それぞれ社に戻ってから、「君ら、アフリカ知っているか」と話をします。のみならず、恐らくその会長、社長方が見られたアフリカというのは、持っていたイメージを覆すものだったと思います。恐らく、アフリカというのは貧しい、よれよれの服を着ている人達が小さな屋台を並べてバナナやマンゴーを売っている、仮にそういうイメージを持っていたとしたら、実際にアビジャンに行き、マプートに行き、アディスアベバに行って見たアフリカというのは全然違うわけです。我々の知っているブランド店や近代的スーパーマーケットがバーッと並んでいる大通りがあり、車が走り、建物は建築ラッシュ、クレーンが並び、そしてホテルもヨーロッパ並みのちゃんとしたホテルがいくつもあります。恐らく今頃、一流企業の社長室、会長室で、大統領と握手している写真を横にしながら、「アフリカは違うぞ」と得意になって話しているのではないでしょうか。総理がアフリカでトップセールスを行った事の大きな影響がこれから出てくると考えます。何をセールスポイントにしたか
では、総理にアフリカに行っていただき、何をしてもらうのでしょうか。日本のアフリカ政策を発表したり、アフリカに対する支援策を発表する事でしょうか。それはもう半年前にTICAD Vでやってしまっています。それを上塗りしたり、書き換えるような事は必要ありません。TICAD Vのフォローアップをするのでしょうか。いや、毎年1回フォローアップの閣僚会合をちゃんと用意しており、総理にやってもらう話ではありません。では、一体総理にアフリカに行ってもらって何をやってもらうのでしょうか。答えは、日本の売り込みです。これに焦点を定めました。すなわち、今アフリカの魅力、潜在力、資源、投資先、市場といったものをめがけていろいろな国がやって来ています。その中で「あなたの一番良いパートナーは日本ですよ」と言ってもらおうと考えました。
ここで皆様にお配りした総理のアディスアベバでのスピーチを見て戴きたいのです。「一人、ひとりを強くする日本アフリカ外交だ」と言っています。この「一人、ひとり」というのがキーワードなのです。どういう意味で、一人、ひとりかというと、「一人、ひとりを大切にする日本」という事です。TICAD Vで、あるアフリカの指導者がこう言ってくれました、『働くとはどういうことで何が労働の喜びか、そういう倫理を教えてくれたのは日本企業だけだ』と。会社とは利益を生む場です。しかしその前に日本企業は学びと工夫を共にし、苦労だけではなく喜びを分かち合う、そして一人ひとりが自分の内なる動機というのを大切にし、命令などなくてもきちんと努力する人間、日本企業のそういった考え方がビジネスに表れてきているのだという事を総理に説いてもらいました。
例えばということで、ヤマハ発動機を取り上げました。ただ単に船外機を売って儲けを持って帰るのではなく、船外機を売った漁民の人達に、どうやって魚を取れば良いのか教える事をやったのです。そうするとその漁民は、ただ単に船外機を付けて船を動かすだけではなく、より良い漁ができます。そうすると、その漁民も収入が増えて、もう1台船外機を買うというふうに次の需要につながります。だから日本企業はただ単に、投資した工場の中での「一人、ひとり」を作るだけではなく、お客さんに対しても「一人、ひとり」なのだ、こうした事を論じてもらいました。アフリカに受け入れられた「カイゼン」
そして次が「カイゼン」という思想です。実はカイゼンというのは今アフリカですごく人気があります。もちろん皆さんご存じの様にトヨタの経営手法の「改善」です。JICAがこの「カイゼン」を、組織の中の効率を良くしていく為に、病院などを中心に広めたものです。それをアフリカの人達が聞いたとたん「これだ」というわけです。一番ビビッと来たのが、2年前に亡くなってしまいましたがエチオピアのメレス首相です。メレス首相はこのカイゼンにほれ込み、これで国民の思想改革をするのだという事で、アディスアベバに「国立カイゼン研究所」という5階建ての建物を作ってしまいました。それで今、全国でカイゼンをやろうと言っているわけです。トヨタがより高い品質のものを生産するための手法として導入した「改善」がどうしてここまでアフリカの人に受けるのでしょうか。最初私はよく分かりませんでした。しかしアフリカの人達に話を聞いてみると、「本当にこれは思想革命だ」と言うのです。なぜか。それは、アフリカの人達は植民地時代から、こういわれてきました。「あなた方が自分でやることは、大体ろくでもない。だから、ヨーロッパの我々がちゃんと教えてやるから言うとおりにしなさい。あなた方が自分で作ろうとしてもろくなものができないのだから、我々が作るものをちゃんと受け取りなさい。」別にそれは植民地の戦略や戦術というのではなく、ヨーロッパ社会というのは基本的にそういうやり方です。非常に有能なトップがドンときて指示をし、下の人達がそれを的確に履行すれば組織は強い、こういう発想です。いわゆるトップダウンというものです。一番正しい組織運営のあり方というのは上の人の言うことをよく聞くことだ、上の人の指示を忠実に履行する事が正しい組織のあり方だと言われ続けてきたアフリカの人達は、結局自主性というものをどこかに置き去りにしてしまったという事に気付き始めていたところだったのです。そこにカイゼンというものが来たのです。生産ラインなら生産ラインのひとつひとつのパーツを受け持っている工員の一人ひとりが、自分の所掌の範囲内で、自分の責任の範囲内でできる最大のことをやろう、そこでできる一番効率的なことを作っていこう、そしてそれが積み重なっていってすばらしい組織になる、という発想です。これはボトムアップが基本の日本の人達が聞いても「どうしてそんなことが珍しいのか」とあまりにも当たり前なので戸惑ってしまいます。ところがアフリカの人達には、この日本の発想が非常に新鮮に受け取られるわけです。日本の民間企業の人達も、国際協力をやっている人達も、NGOの人達も、それこそそこら辺にいる高校生1人連れて行っても、日本人であれば誰でも必ず「一人、ひとり」をやっています。
組織の中で、必ずアフリカ人の人と一緒に考えようという姿勢でやります。ところがそれは他の国にはありません。そこを日本の良さということで売り込むようなことにしました。「一人、ひとり」と「カイゼン」という思想に表れているような、日本の企業や文化には非常に良い日本らしさがあり、それこそがアフリカを強くするのだという事を総理に訴えてもらったわけです。アフリカと一緒に踊ろう
更に、私が今回の一番の成果だったと思うものをひとつご紹介しますと、エチオピアの最後の夜に、先ほど言ったような晩餐会があったわけですけ。その晩餐会の最後にダンサー達がワッと音楽とダンスを総理の前で奏で始めたとき、総理が立ち上がって一緒にダンスをしました。満場がそれに喜び、それこそ皆立ち上がってその場でダンスを始め、すばらしい雰囲気になりました。これは私共が振りつけたわけではありません。総理が自分で立ち上がってかなり上手に踊られました。私は総理には、今後ともアフリカと一緒に踊ってもらいたいと考えております。
- 討論:モデレーター岡田正大慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授
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それではこの後1時間弱、安倍首相のアフリカ訪問と今後の官民協力というテーマで討論を始めさせて戴きます。まずパネラーの方々をご紹介します。三菱商事から、経済協力部長をされている堂道さんです。それからJICAアフリカ部長の乾さん、そしてただいまお話戴きました外務省アフリカ部長の岡村さんです。岡村部長には既にお話戴きましたので、乾さん、堂道さんから、概ね5分程度で今回のこのテーマに関しての、自己紹介兼コメントを戴きたいと思います。では、乾さんよろしくお願いします。
- 乾英二
JICAアフリカ部長 -
JICAの田中理事長が総理の訪問に同行致しましたので、私は田中理事長の随行という事で行きました。岡村部長からも3か国の特徴をお話戴きましたが、私共も、非常によく考えて戴いたなと思っております。まず長い内戦から急速な復興を遂げている、フランス語圏アフリカの中核的存在であるコートジボワール、それから世界最大級の天然ガスや石炭が出て地下資源が豊富で、それを利用して農業や社会開発をバランス良くやっていかなければならないモザンビーク、それからAUの本部があり、故メレス首相によってカイゼン運動を推進しているアフリカの首都であり中核であるエチオピア、その3つを非常にバランス良く、またスピード感を持って、ご訪問戴いたと思います。民間企業のトップの方とご一緒して、逆に自分も非常に勉強させて戴きました。
具体的なフォローアップ
JICAとしては、ひとつひとつの国々の具体的な案件を実施しながら、岡村部長のお話にあるような日本らしい協力、または実績を積んでいきたいと思っています。例えばコートジボワールではアビジャン首都圏のマスタープランを作っているのですが、その街作りをフランスの人達とも一緒に行ない、その中の重要なところを日本でやる、またはアフリカ開発銀行と一緒になって、具体的にインフラを作りながら、一緒に考えながらやるという手法で進んでいます。またECOWASの11か国の首脳が集まって、自分達の国に何をやってくれという事ではなく、地域のインフラをどうすればこの地域が活性化するかという事が話しあわれたと聞います。これを具体的な案件としてフォローしていきたいと思います。
また、モザンビークでは、5年間で700億円の支援と、300人の産業人材の育成をしますが、その700億については円借款や、無償資金協力を使って、特に北部の貧しい地域のインフラ開発をやりながら、その中の社会開発も一緒にやり、その地域全体をボトムアップして発展させる事をやって行きたいと思っています。また、協力隊の32人が安倍首相に直接握手をしてもらい、写真も一緒に撮って、非常に激励して戴きました。ありがたい事だと思います。
エチオピアでは、カイゼン運動などは故メレス首相の音頭で取り組んでいるのですが、産業人材育成センターを起動し、産業界のニーズをうまく捉えながら、その人材にマッチした人間を、カイゼンなどのコンセプトを入れながら育成していく事に取組んで行きます。EPSAと呼んでいるアフリカ開発銀行を通して民間を支援するためのスキームは、最初は2012年からの5年間で10億ドルという予定でやっていましたが、それを倍の20億ドルにして実施しますので、ますますアフリカの開発パートナーとも一緒に取組んで行かなくてはならないと思います。
4つのコンポーネントで総合的に
運輸・交通・エネルギー等の経済開発と、民間連携も含めながら、それをバックアップする人材育成、保健、社会開発をバランス良く支援しながら、全体として日本の協力、仕事を「一人、ひとり」を大切にしながら実施したいと思っています。その中で具体的にアフリカの経済開発を支援するためには、4つのコンポーネントがあると思います。
ひとつは政策支援、工業政策や運輸政策といった「大きな政策の支援」。それに「人材育成」と「制度改善」と「インフラストラクチャー」を合わせて総合的に、問題をひとつひとつ改善しながら実施し行きます。特に現場の声、問題点を具体的に国の制度改善等に生かしながら仕事をして行きます。例えば現場で必要な人材はどういう人なのか、どういう能力がある人がこの国に必要なのかということを民間の方々から聞きながら、それを職業訓練や教育に生かす。または民間企業の方が実際に仕事をされていて、例えば税や通関の問題等でいろいろとご苦労されていると思います。それを具体的に政府に伝えて制度改善するとか、いろいろな法律を作るお手伝いをするという事で、やはり総合的に取り組みながら仕事をしていきたいと思っています。またアフリカの土壌は、それができると思います。故メレス首相がカイゼン運動を国の施策としてやると言ったのは2008年のTICAD IVの時です。それが今では具体的にエチオピア「カイゼン・インスティチュート」という形で国家政策として動き始めているくらいのスピード感、ダイナミックさがある地域がアフリカだと思いますので、ぜひ皆さんのお知恵、ご提言をお伺いしながら、具体的な案件で進めていきたいと思います - モデレーター 岡田教授
- ありがとうございました。続きまして堂道さん、よろしくお願いいたします。
- 堂道雅治
三菱商事(株)経済協力部長 -
今回の安倍首相のアフリカ訪問には、弊社社長が3か国全てに同行させて戴きました。社長は担当者時代にアフリカの案件を手掛け、アフリカに対する経験や思いは非常に強い人ですが、岡村部長がおっしゃるように、帰国後は「アフリカを攻めろ」という明快なトップダウンの指示が出て、我々は非常に喜んでおります。
アフリカでの取組み
弊社は世界の90か国以上に200以上の拠点を持ち、600のグループ企業と事業を展開しています。分野としては貿易のみならず資源開発、インフラ整備、産業金融、製造から流通まで事業展開をしています。また、資源関連では、日本が輸入しているLNGの約4割、原料炭の3割を扱っています。アフリカでは1950年代から拠点を設けており、現在では12拠点、邦人が31名、ナショナルスタッフは70名活動しています。各拠点は市場の変化を察知するアンテナ機能がメインの役割ですが、加えてビジネスパートナーとの関係構築の役割を担っています。
訪問3か国のいずれにも長年拠点を持っており、モザンビークではアルミ製錬事業であるモザールに参画しています。モザンビークの投資フォーラムでの安倍首相のスピーチでも、モザールがについて付言戴き、おかげで安倍首相のご発言の後に社長からモザールのプレゼンテーションをさせて戴く貴重な機会を戴きました。モザールの成功原因として2点あり、1番目は関係政府機関の十分なサポートを得て連携ができたこと。2番目は商社のマーケティング機能が生かされたことです。これは弊社のアフリカ事業の取組みにおいて非常に大きなヒントになっております。
わが社の主要ビジネスは、資源関連、インフラ整備、貿易取引の3点です。資源関連ではモザンビークで日立建機と鉱山機械のメンテナンス事業、アンゴラ・ガボンで石油生産事業をしています。貿易取引は鉱物資源のみならず、コーヒー豆、ごまなどのアフリカ産品の輸出を手がけております。インフラ整備では、日本のODAを活用した電力、港湾、交通等の無償案件にも積極的に取り組んでおり、円借や投融資案件につなげていきたいと努力しています。
アフリカを含め海外での事業において、地域との共生は不可欠です。これ無くしてビジネスは実現できないと思います。モザールを筆頭に、弊社はアフリカ各国において奨学金、教育、保健分野での社会貢献活動を推進しています。
アフリカでの官民連携
アフリカにおける官民協力
の観点から3点申し上げたいと思います。
1番目は、今回のトップセールスは非常に意義があったという点です。TICAD Vの日本政府のコミットメントを踏まえて、日本のトップが改めてアフリカの地で自ら一人ひとりの力を大事にする日本らしい支援や、官民連携でのアフリカでの取組みを直接表明した事は大変意義深いと思っております。
2番目は連携の重要性です。アフリカ経済の発展や中間層の拡大を見ると、今後インフラ事業や、アフリカをひとつの巨大な市場、面として捉えるビジネスは大変重要になってきます。その際に、官民連携や、日本企業とパートナー企業の連携が重要です。機能を補完しあうこと、これ抜きではなかなか成功は難しいく、スピード感も含めたケミストリーの合うパートナーを探すといった、パートナー戦略がますます重要になってくると思います。
3番目は、やはりWin-Winの関係に向けた取組みという点です。アフリカでは事業推進に必要な登録手続きや法制度はまだまだ未熟な点が多く、日本政府からの技術協力や専門家派遣のご支援を引き続きお願いしたいと思います。またインフラ整備ではODAが大切な突破口ではありますが、インフラ整備に続く投資を伴うコマーシャルビジネスの創出が相手国の発展にとって大変重要です。コマーシャルビジネスを考え、それを支える機能として政府資金、技術協力と連携するビジネスプロセスを考えていきたいと思います。弊社としてもアフリカで新しいビジネスを創出し、各国の雇用創出、人材育成、発展に寄与することを目指します。
最後になりますが、ODA制度のさらなる充実、柔軟な運用、加えて邦人の安全対策に対する一層のご支援をお願いしたいと思います。 - モデレーター 岡田教授
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堂道さん、有難う御座いました。それでは私自身の自己紹介を兼ねて、私から2~3分話しますが、その後にフロアの皆様にもこのパネルにかかわって戴き、インタラクティブに進めてまいりたいと思います。
まず私自身の簡単な自己紹介ですが、慶応のビジネススクールというMBA(経営学修士)と博士課程を持つ教育機関です。基本的には営利企業がいかに利益と売上を増大させていくかということを中心に教育と研究をしています。従って、当初はこのパネルで司会を務めるのは如何なものかと思いましが、今回の安倍首相の訪問にもあるように、また堂道さんのお話にあった民間企業がリスクを取る決断をして事業参入をしていくという事は、まさにビジネススクールが目的とするところであって、そこに強い一致を感じて今回登壇させて戴きました。
私の持っている唯一のアフリカとの個人的関係といえば、それはつい最近知ったのですが、安倍首相のアフリカ訪問の直前にエチオピア大使になられた鈴木量博さんが、高校のテニス部の同級生だという事だけです(笑い)。私自身は、もともとの専門は戦略理論ですが、現在は「包括的ビジネス(inclusive business)」といって、如何に社会性と経済性を両立させていくかという、開発課題と営利事業を同時に成立させるビジネスのあり方を研究しております。ここ数年はアフリカを訪ねたいという欲求が高まって、何度も足を運ぶようになりました。
ビジネススクールでは、企業を固有名詞で議論をするのが通常です。今まで、そしてこれからも民間企業がリスクを取り、アフリカに事業参入するということが続々と期待されますが、例えば総合商社、三菱商事、丸紅、住友商事、双日、それ以外にも多くの商社がアフリカへ参入されていますし、専門商社ではもちろん豊田通商が非常にパンアフリカでカバレッジを高めていらっしゃいます。また今後は事業会社がどのように自社でリスクを取って事業参入するかという点が非常に重要になってくると思うのです。少なくともこれまでの事例を見ましても、例えば味の素はナイジェリアでもガーナでも積極的にやっていますし、いすゞ自動車は南アフリカで展開されています。もちろん安倍首相のあいさつにも出てきたヤマハ発動機、それから日本通運もグローバルロジスティクスのネットワークを組んでいらっしゃいます。東芝もエジプトを中心にテレビ事業をやっていらっしゃると記憶していますし、有名な住友化学、私もアルーシャのオリセットネットの工場に行ってまいりました。8,000人プラス現地の提携パートナーによる雇用で合計1万6,000人の雇用を生んでいます。それから日本たばこもスーダンで現地企業をM&Aし、さらに事業を拡大しています。これは新聞記事で拝見しましたが、カネカは付け毛のビジネスではアフリカのシェア50%を超えているという事です。それから大森回漕店のキリマンジャロエクスプレスについても新聞記事で拝見いたしました。NECは非常に有名なパソリンクが欧州を中心にアフリカでも事業を展開してきていますし、東洋製缶は確か米国企業を買収し、その企業がアフリカへも事業を展開しているなど、枚挙に暇がないほど多くの民間企業があります。さらには、例えばパナソニックのタンザニアの乾電池工場を訪れた際には、先ほどお話にあった「カイゼン」や「5S」に非常に一生懸命取り組んでいました。関西ペイントの南ア企業買収も非常に耳に新しい、大きな進展と言えるかと思います。私はもともと本田技研工業に勤めておりましたが、ホンダもナイジェリアとケニアに二輪の工場を建てています。このように続々と民間企業がアフリカへ、という流れが近年できあがっていると思います。
そのような中で、当然ながら政府に対してどのように支援をしてほしいのか。来月ケニアを訪れてリクシルと環境ライフテクノロジーのプロジェクトを見学するのですが、これらはJICAの支援を受けています。やはりJICAの80件を超えるFS採択案件の中でアフリカはその何割かを占めているわけで、民間企業が当初の参入リスクをいかに軽減して参入していくかという体制も続々と整いつつあります。また、JICAとJETROが連携して民間企業の事業参入を支援する、こういった体制が今急速に構築されてきており、大変心強い限りだと思います。
さてそれではここから、ぜひフロアの皆様方から、今回の安倍総理のアフリカ諸国への訪問、そしてまたパネリストの皆さんにこういうことを聞きたい、ということがありましたらぜひ伺いたいと思います。何かございますでしょうか。どうぞ。 - 質問者:加藤透
ヤマハ発動機海外市場開拓部 -
ヤマハ発動機が魚の取り方を教えたというのは25年くらい前からこつこつやっている事で、JICAの水産関係の専門家の方にご指導戴いて、四半世紀も前から今で言うPPPを始めていたという事です。従って、JICAに御礼申し上げたいというのが我々の気持ちです。それから質問ですが、エチオピアに入る前に南スーダンでドンパチがありました。アフリカの中で一番若い国だというので私も期待して去年10月に入り、こいつら面白いなとすごく思ったのですけれども、ああいうふうになかなか分かりにくい中、日本政府としてもヘルプすると言っていますが、どのような援助をお考えになっているのかお伺いしたいと思います。
- 岡村善文
アフリカ部長 -
南スーダンは、去年12月に突然内乱を始め、非常にがっかりしています。スーダンという大きな国があったのが、昔から南の、どちらかというとキリスト教系の人達が独立したいと言っていた、そして長いプロセスを経てやっと独立しました。その背後には、彼ら自身の力もあったかもしれないけれども国際社会もしっかりと支援し、かつその後の国づくりに一生懸命力を入れてきたわけです。日本も自衛隊員をPKO要員として派遣し、国づくりをしっかりと支援していこうと思ったところに、独立後わずか2年も経たないうちにそういう事態になったことに非常にがっかりしています。これがアフリカの弱さというものを象徴している事は確かです。ただ、非常に根深い対立からこうなった面もないわけではなく、これではいけないという事で、一生懸命事態の収集を図っている人達もいます。特に周りの国々はなんとかこの南スーダンのことを大きな人道的な被害にしないようにという事で努力しています。私はそういったアフリカ自身の努力というのは今回もちゃんと出てきていると思っています。日本の支援は、この事件が起こる前と後とでは少し性質が違ってくる事は確かですけれども、引き続きこの国がまた元の道におさまり、国民和解を達成し、そして和平と安定した国家の建設に戻ってくれるように、きちんと支援をしていきたいと考えております。
- モデレーター 岡田教授
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乾さん、堂道さん、この南スーダンの現状について知見、メッセージが御座いましたらよろしくお願いします。
- 堂道雅治
三菱商事(株)経済協力部長 -
外務省のミッションで南スーダンを訪問し、本当に貧しい国のひとつだなと思いました。一方で、人は非常にすばらしいし熱心だし、ポテンシャルは高いということで、無償ODAの案件フォローを中心に東京やケニアから南スーダンをカバーしています。民間としてできることは限られますが、やはり立ち直ってほしいので日本のプレゼンスを高めていく支援をしていきたいと思っています。
- モデレーター・岡田教授
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今日、アフリカ開発銀行の玉川所長がいらっしゃっていますので、せっかくの機会ですのでぜひ一言戴ければと思います。今の話も絡めてお願いします。
- 玉川雅之
アフリカ開発銀行アジア代表事務所長 -
TICADが開催されて、大きなテーマとなったのは、日本がアフリカの民間主導の成長を支えていく事です。我々が成長を遂げたのは民間セクター主導でやったからであり、これと同じことをアフリカで行なっていくべきだという事が日本の今後の支援の中心となりました。そのためにはやはり民間セクターが非常に大きく発展していく事を手伝っていかなければいけないのです。そのときに日本企業がアフリカの方々とパートナーシップを作り、そこで事業をやりモデルを示す事によって、アフリカ経済が民間主導で育ってゆきます。この様な形で日本が大きく貢献できるのではないかという事がTICADでの大きなテーマとなりました。今回の安倍総理の訪問は、まさに企業のトップの方を連れて行って戴き、またそれがアフリカ各国でも大歓迎されたという意味では大変大きな一歩ではなかったかと思います。その意味で、次のTICADまでの4年の間に、このようなモーメントが官民においてどこまで進んでいくかというのが非常に大きな課題だと思います。我々アフリカ開銀もアフリカ側からのそういう期待を大変に受けておりますので、ぜひ日本政府との連携も行なっていきたいと思っております。
- モデレーター・片岡教授
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まずはいかに平和が確保されるか、治安が確保されるかという事があってビジネスが成立していくという事になるわけで、その意味においての政府、公的セクターの役割、そしてまた政策的支援も非常に重要だと改めて感じます。さて、それではまたフロアの皆様からお願いします。
- 質問者:北村達也
日経BP 海外営業部長 -
人材教育について皆さんのご意見を聞きたいと思います。TICAD Vで安倍首相から「ABEイニシアチブ」、5年間で1,000人の学生をという話がありましたが、今日の日経新聞等でも、中国がいよいよ人材教育にも力を入れているということで、中国語教育、ものづくりも含めて教育機関を作った、そういう動きが活発になっているという話がありました。日本の民間企業ではトヨタが南アで作っているのは知っているのですが、最近の民間企業でのそういったエンジニアの育成、要はタレンテッドなエンジニアをいち早く手に入れるために、いち早く教育をするという事についてはどういう状況になっているのか。また政府として中国がいよいよ人材教育にも力を入れ始めたという状況の中で、トルコでやっているような科学技術大学のような現地での学校との提携といったものへの投資について何かお考えがあればお聞かせ戴きたいと思います。民間企業が今トヨタ以外でどういう動きがあるのかという事と、現地での教育の提携、この2点についてお聞かせ戴きたいと思います。
- モデレーター 岡田教授
- 乾さんお願いします。
- 乾英二
JICAアフリカ部 -
ABEイニシアチブは、5年間で1,000の留学生を呼ぶというものです。今までの留学制度と違う点は、マスターディグリーを修了する前に日本企業にインターンなどに行き、日本企業の良さを分かった上で卒業して戴きます。できれば日本企業との架け橋になってもらい、または現地の日本企業に就職してもらい、日本にシンパシーを持ったアフリカの知識階層を作って行く試みです。今までは、研修事業を通じて取り組んできましたが、今回はこの様に大きなイニシアティブを通じた留学制度を実施するという事で、JICAも手伝っています。民間の中の人材育成は、例えばトヨタはケニアでトヨタアカデミーというのを作り民間で育成する部分と、官ベースで我々が育成する部分をジョイントしてやろうという事になっています。カイゼンの話では、10か国で、産業界のニーズを踏まえて、例えば日立やトヨタ、日産で、どういう人材が必要なのかをヒアリングし、それを例えば教育のカリキュラムに入れ、またはインターンシップのプロジェクトを企業でやってもらい、それを踏まえた上で卒業させます。それによって就職率が上がるといった細かい分析と、細かいアプローチをしながら、国別に、地域別にいろいろな人材育成を目指しています。
- M. ンガム ヤヒア
駐日モーリタニア特命全権大使閣下 -
TICADは確かにフォーラムとしてさまざまな問題を取り扱うことができました。アフリカと日本の協力に関する問題で、安全から投資に至るまでの問題が話し合われました。私が実際に日本の民間企業の方々にお会いすると「我々はとても興味を持っている、アフリカに進出したい」というふうに言って下さいます。しかしアフリカの幾つかの地域、幾つかの国においては少し赤に染まっているところがあります。つまり政府からそこに渡航禁止になっている国々があります。
確かに安全の懸念はとても重要なものです。けれども、ある程度のものを考えて均衡を取るべきではないかと思うのです。赤い色を少しどこかで溶かして日本の企業がプレゼンスを伸ばす事ができる様にしなければいけないと思います。
ここにいらしている丸紅と豊田通商の2社は、モーリタニアで既にプロジェクトに関わって下さっています。丸紅は非常に大きな砂糖製造のプロジェクトに関わっており、このプロジェクトが本当に実現することを望んでいます。モーリタニアの発展のためにとても重要なプロジェクトであります。豊田通商については特に付け加えることはありません。
日本のタコの消費の45%はモーリタニアから輸出しおり、魚のセクターだけで知られています。我々の国は日本の民間部門に対して開かれています。エネルギーやインフラその他の分野においても協力をしたいと思います。モーリタニアの大統領は1カ月前にセネガルを訪問しました。その際の成果の一つはモーリタニアとセネガルの国境となっている、セネガル川の間に橋を架けるという事でした。日本企業はこうした橋の建設に経験をお持ちですから、モーリタニアにきてその橋の建設に参画して下さい。 - モデレーター 岡田教授
- 堂道さん、何かございますか?
- 堂道雅治
三菱商事(株)経済協力部長 -
総合商社ですからグローバル人材の育成は大変重要ではあるのですが、メーカーさんのようなエンジニアを育てるという観点では申し上げられません。ただし、やはり人材の厚みというのは非常に重要です。特に弊社の経験では、コンプライアンスをしっかり分からせて事業を推進する人材を育てていくためには時間がかかっても新しい人材を教える教官的な現地の人が必要だと思っています。それが、先ほど申し上げた拠点で70人を抱え、時間をかけて人材を育てている理由です。またわが社ではいくつかの国の主立った大学の覚醒に奨学金の支援を行っており、それを通じても現地の教育事情を見ながら人材育成の相場観をみています。
一方で大事なのは、人材はやはり事業があってこその人材であって、人を取って仕事がないと辞めていく、もしくは能力が発揮できないというジレンマがあると思います。したがって事業を伸ばす、または投資の機会を増やす、トレーディングを増やすという中で人材を取っていくという両輪で進めていくことが大事だと思います。今申し上げた何点かのバランスを取りながら、積極的にグローバル人材、アフリカ人材を育てていくという事は取り組んでおりますし制度は整備しております。 - モデレーター 岡田教授
- ありがとうございます。では岡村部長。
- 岡村善文
アフリカ部長 -
少し違う話になるかもしれないのですが、北村さんの言われた人材というのは本当に大きな問題だとつくづく実感したことがありました。南アに出張したとき、大きな建設事業を落札したある日本企業の人が頭を抱えていました。せっかく事業を取っても、溶接工がいないのです。かなりの数の溶接工が必要なのですが、とにかく質の高い溶接工がいません。南アフリカは、アフリカの中で図抜けて経済が先進している国なのです。それでも溶接工がいないのです。そんなものだろうかと思いながらヨハネスブルクから帰りの飛行機に乗って、隣の席に座ったのが、ナミビアでウラン鉱山を作っている中国人でした。この中国人と話が弾み、ナミビアで一番苦労する事は何かと聞いたところ、「溶接工がいない事だ」と。彼は現地で溶接工を探したけれどもほとんど見つからないので、仕方なく中国からたくさん連れて帰るのだと言っていました。中国は現地の労働者を使わないとの批判があります。しかし、実情はそのようなところにあるのかなと思いました。
先ほど堂道さんから事業を伸ばす中での人材というお話がありました。これは非常に大事なことで、やはり必要な人材を必要な時に作って行く、トヨタアカデミーのような取り組みは非常に有益だと思います。我々もそれをよく見ながら、これからの日本企業が現地で必要とするような人材を見極め、その人達を早目、早目に作って行きます。それは、エンジニアリングのような知的に高度な人達の話もそうですが、溶接工のようなまさに職人レベルの人達もそうであると感じています。 - モデレーター・片岡教授
- まだ幾つか取りたいと思うのですが、他にどなたかいらっしゃいますか。
- 漆原 智子
武田薬品 元青年海外協力隊 -
一般参加の漆原と申します。2年前まで青年海外協力隊としてモザンビークで医療系隊員として2年間赴任していました。今は一般企業に勤めています。豊田通商の横井さんと、JETROの石井さんに質問があります。
まず豊田通商さんは、アフリカに今50カ国以上ありますけれども、最初に日本で車を組み立てて輸出を始めたのはケニアだとおっしゃいましたが、なぜケニアだったのかというのが非常に興味のあるところです。
JETROの石井さんには、アフリカで幾つ事務所を構えているかという事ですが、モザンビークには日本企業も、商社が何社か入って日立なども来ていますが、まだ日本とのかかわりは資源以外のところは非常に薄いかなと思っています。どういう基準で事務所を構えるのかを教えて下さい。 - モデレーター 岡田教授
-
ありがとうございました。私も私立大学におりますので、アフリカと日本の経営人材について現在考えている事を申し上げます。ビジネススクールなので、多くの民間企業の方々と触れ合う機会があります。非常に強く感じるのは、アフリカでビジネスをやるという事に対して、情報の非対称性といいますか、そもそも知らない、その彼我の違いというのが非常に強く感じられる事があり、アフリカをもっと学ばなければいけません。もちろん、日本がアフリカに何か教えると言う事もたくさんあるかもしれませんが、実はアフリカから学ばなければいけない事がたくさんあると考えています。ビジネススクールで経営人材の育成をやっている中で、一生懸命取り組んでいるのは、アフリカのビジネススクールと日本の(この場合慶応のビジネススクール)がいかにタイアップするか。これは明らかに対等なパートナーシップです。先ほど玉川所長が民間セクターにおける開発という事をおっしゃったのですが、それはプライベートセクターディベロップメント、決して先進国の民間セクターが行ってアフリカ経済を豊かにするのではなく、アフリカの民間セクターも同時に発展していくという事が成立しないとうまくいかない話で、その辺りを私共は強く意識しています。
来月、ジョモケニアッタ大学のモンバサキャンパスと、ナイロビにあるストラスモア大学に行くのですが、そこで、どうやってイコールパートナーで学び合えるか、例えば教員や学生の相互交流みたいな事をどうやってプログラム化できるかという相談をしに行きます。そういう事を今画策しているというご報告です。乾さん、何かございますか? - 乾英二
JICAアフリカ部長長 -
ジョモ・ケニヤッタ農工大学というのは日本が30年ほど協力していて、ゼロから作った大学です。他の大学と何が違うかというと、実学が非常に強い、いわゆるシビルエンジニア、現場があって、現場の中で工夫したり考えたりするような事を日本の先生方が行って徹底的に教えたので、そこを出たエンジニアは基本的に現場できちんと工夫ができるという事です。机上の理論を知っているアフリカ人はかなりいますが、それにプラスして現場で役に立つ実学のところも持っていなければいけないという事だと思います。私はコンゴ民などのODAの現場を見たのですが、日本の北野建設が道路工事をやっている現場ではバングラディシュの人を連れてきてきちんと中間段階をおさめている。または大日本土木がエジプト人を連れてきて、結構難しい工事をしています。それを見ると、例えばコンゴ民の方々は、日本と一生懸命頑張ってやればあのレベルに達するのだという事を非常に分かります。どういうDNAか分かりませんが、日本人が現場の人と一緒に、彼らのモチベーションを高めながら教育をして使える人に育てて行くというのは日本のやり方として、我々もきちんといろいろなところで話をしたいと思っています。
- モデレーター 岡田教授
-
アフリカに行くたびに、その国のビジネススクールを訪ねる事にしていて、南アフリカに行ったときは、プレトリア大学のビジネススクールであるゴードンインスティチュートオブビジネス、タンザニアのダルエスサラム大学のビジネススクール、ガーナにガーナ大学のビジネスクールがありますが、行くたびにびっくりするのは、その校舎があまりにも豪華で立派な事です。多くの企業や国から経営人材教育に対する資金が、ある意味その後に期待してのドネーションが入っています。確かダルエスサラム大学だったと思いますが、ゴールドマンサックスの銘板が入っていたり、そういったことを見るにつけ、日本企業からもそういった経営人材教育のサポートをする余地はまだまだあるなという気がいたしました。さて他には。はい、どうぞ。
- 質問者:武藤一郎
アフリカ協会特別研究員 -
アフリカは植民地時代の経緯があり、国をそれぞれの単位で見るより地域で見るという事が非常に重要だと常々思っているのですが、今回総理が訪問されたモザンビークについて2つほどお聞きしたい事があります。ひとつはナカラ回廊です。ナカラ回廊の奥にはテテ州という石炭の豊富なところがあるのですが、それとインド洋への出口を結ぶのがナカラ回廊であるから、当然マラウィを経由する事になります。そうなるとモザンビークに対する協力だけではなくマラウイに対する支援も含めたSADC全体で考えると必要があります。特に海に面していないマラウイの様な内陸国にとっては、モザンビークの港湾に至る経路を確保する事になるのでナカラ回廊はマラウイにとっても極めて重要であり、同地域の総合的な計画が必要となります。今回の訪問に関していえばマラウィの名前は出てきませんが、地域的に見るとマラウィも含めて考える必要があるのではないかと思います。
もう1点は、ボツワナに日本の援助による鉱物資源のリモートセンシング、遠隔探査のセンターがありますけれども、モザンビークは資源が将来に向けて非常に期待されるところがあります。ボツワナの遠隔探査センターはJOGMECが中心になって進めてきたプロジェクトだと思いますが、もう少し日本のODAの中枢に包含するような形で位置付けられたほうが良いのではないかと感じています。同センターは何か日本のODA本体とは別建てのプロジェクトのような印象を受けており、オールジャパンの協力として実施されるべきと感じますが、その点につきどういうふうになっているのか、お話を伺えたらと思います。 - モデレーター 岡田教授
- ありがとうございました。2点についてご質問がありましたが、では乾さんから宜しくお願いします。
- 乾英二
JICAアフリカ部長 -
先日、三原先生とご一緒してナカラ回廊をずっと上り、マラウィを陸路で行きました。外務省が出したTICAD Vのひとつのイニシアティブとしての5大回廊開発という事の中にナカラ回廊というのは位置付けられていて、それはモザンビークだけではなくザンビアやマラウィも包含するものだという事で、各国政府ともいろいろと話をしております。
それからボツワナにつきましても、まさにJOGMECのリモートセンシングセンターが、人材育成とその国の資源開発を一緒にやっていこうという事で非常に良い活動をされています。先ほど申し上げたモザンビークの産業人材育成の300人というのは、半分はJOGMECの中の研修が入っていて、研修するだけではなく実際にその国の資源開発を一緒にしながら研究もするという事で非常に良い活動をしています。経済産業省またはいろいろな省庁とも、どこで何をやっていて、何をターゲットにしているかと考えながらJICAのスキームをうまく活用して戴きながらやっているところです。
なかなかその説明ぶりが難しく、皆さんに届かない面があるのかもしれませんが、私からするとTICADを契機にかなりオールジャパンとして持てるものを出し合い、その中で一番良いところをアフリカにアピールしていくという事をやっていると思っています。 - モデレーター・片岡教授
- 堂道さん、民間のお立場で何かございますか?
- 堂道雅治
三菱商事(株)経済協力部長 -
マラウィの大使は弊社のOBが昨年から務めておりますので、ぜひマラウィに足を運んでください。しかし、マラウィだけ見ると非常に厳しいと言わざるを得ません。今回のJICA、外務省の施策で我々が一番興味を持っているのはマスタープランです。マスタープランは、地域で見ているという事、もしくは回廊で見ているという事、もしくは内陸国の開発をどう支援するのかという観点で見ているというのが非常に興味深いですし、注目されるべきだと思います。そういう観点であの回廊、もしくはマスタープランをどう進めていき、日本の民間企業がどのように参加できるのか、この辺りは民間として知恵の出しどころだと思います。
- モデレーター 岡田教授
- ありがとうございます。岡村部長、何かございますか?
- 岡村善文
アフリカ部長 -
地域で見なければいけないというのはとても良い視点だと思います。アフリカは多くの場合、かなり人工的・作為的な形で国境が引かれたことにより、分割されすぎています。ひとつひとつの国が市場としては小さすぎるので、それをいかに大きな市場として結合していくかという事は、アフリカの人達自身も実は強く感じている問題意識です。まさに今の戦略的マスタープランも含めて、我々はアフリカの人達にオーナーシップを持ってもらおうとしています。我々がその地域をつなげていくという事はできなくて、やはりアフリカの人達自身が自分達でどうしようか、国境のボーダーストップをやめようとか、流通のためのインフラを作ろうといったことを相互に協力して考えていかなければならないので、アフリカの人達のイニシアティブに我々は期待しています。
その意味で大変面白かった話をひとつご紹介しますと。先ほどアビジャンに11か国の首脳が集まったと申し上げましたが。11か国集まってくるという事に際してひとつだけ我々が心配した事があります。それは、その11か国それぞれが日本に個別の陳情をしてくるのではないかという事です。私も総理の後ろで、それぞれの国の陳情案件について回答を持って控えておりました。ところが、11か国の大統領が並んで、一人ひとり発言した時に、誰ひとりとして「我が国にこれをしてくれ」という話をしませんでした。一人ひとりの大統領が、自分達の西アフリカ地域は、南部アフリカに比べて紛争などがあって若干遅れているけれども、こういう潜在性がある、でもここが自分達には足りないのだという話をしました。陳情合戦になるのかと思ったら全くそうではなく、やはり大統領達が自分達の地域単位の開発をどう進めていくかという事を考えているという事です。
もうひとつ驚いたのは、10時半くらいまで歌や踊りの大パーティが巨大な会場で行なわれ、終わって総理初め皆さんが退場しました。ところが、総理を除く11か国の大統領達は、その後別室に集まり、彼らだけでまた協議を続けたらしいのです。そして、今、西アフリカにとって一番必要で、日本にぜひ協力してほしいものは何か、これを夜中の12時過ぎまで話し合い、ぜひ地域全部をつなぐ高速道路を作ってほしいと言う結論になったそうです。それは翌日の空港での見送りのときに、ウワタラ大統領から安倍総理に伝えられました。私が感銘を受けたのは、大統領達は真剣なのです。地域をひとつにぐっとまとめて大きな市場を作っていく、そのために自分達には何が必要か。これだけの資源があり、これだけの潜在性を生かし切れていないのはなぜかということを地域の大統領は一人ひとりきちんと考えていて、それをとにかく日本の力でなんとか解決に向けて進めて欲しいというふうに感じていたという事です。私はそういった、地域のイニシアティブがちゃんと出てきているという事を非常に嬉しく思った次第です。 - モデレーター 岡田教授
- ありがとうございました。はい、どうぞ。
- 質問者:布目正浩
丸紅株式会社 情報金融不動産部門長付 -
私はケニアに1984年から5年駐在し、毎週のようにウガンダに通いつつ、ケニア、ルワンダ、エチオピア、タンザニアなど東アフリカ地域をカバーしました。その後通算6年駐在した南アでは、マンデラ大統領が就任した前年の1993年にヨハネスブルグに合弁会社を作りました。最初の仕事は1994年の総選挙のための通信網作りでした。この会社はそれから20年間黒字でやっています。今日のお話を伺い、方向性に賛同しますし、非常に素晴らしいと思うのですが、私は商社で情報通信をやっていますが、NTTのプレゼンスがアフリカではほとんどないのは残念に思っていました。
2011年、NTTはディメンションデータを3,000億円近いお金をかけて買収しました。なぜでしょう?南ア人の大半は少なくとも3か国語を話します。自分の部族の言葉と英語ともうひとつ、南ア人はマルチリンガル、マルチカルチュアルです。世界に出て勉強している人も非常に多くいます。ディメンションデータは東京に200人規模のチームを常駐させ、トヨタのネットワークの世話をしたりしています。そういう南ア企業の実力というものがあるという事を申しあげたいのです。NTTには英語を話す人もそんなにいないし、そういう文化でもありませんので、このまま世界に単独で出て行くのは難しいでしょうが、ディメンションデータの買収によって補完された訳です。彼らはヨーロッパには巨大なプレゼンスを持っていますし、東京にもいますし、南米にも出てやっています。
それからモバイル通信でいうと、NTTドコモよりも南アのMTNという携帯電話会社のほうが加入者の数は多いのです。NTTドコモはせいぜい1億人ですが、MTNは約3億人の加入者を持っています。ナンバーワンを張っているのがナイジェリア、ガーナ、リビア、イエメン、シリア、イラン、つまり日本の通信事業者が全く手の届かないところを彼らはカバーしているのです。そういうふうに物事を見る、つまりアフリカというところだけを切り離して見るのではなく、世界の中で日本人が弱いところを補完してくれる存在がアフリカにもあるというのが、37年アフリカと付き合った経験から得たことです。
質問ですが、去年、アルジェリアのイナメナスで日揮の方がテロリストに殺害されました。サヘル地域というアトラス山脈の南麓には、まともな仕事がないので人殺しを仕事にしている人が沢山いるわけです。一方、セネガルからソマリアまでの地域で農業開発をやってグリーンベルトを作ろうという壮大な構想があり、先ほどの高速道路を引っ張ってくれという話もそこにリンクしているのだと思いますが、高速道路というインフラだけじゃなく、そこの経済開発を面でやろうという構想があるわけです。やはりこれをやらないとゲリラというお仕事もなくならないという事だろうと思いますが、そこに対する外務省やJICAのスタンスはどうか質問したいと思います。 - モデレーター 岡田教授
- サヘル地域に関するお話ですね。
- 岡村善文
アフリカ部長 -
MTNなどの補完してくれる現地企業があるという事は大変正しい指摘でして、実はアフリカで見ているとヨーロッパ系の企業が強いのかと思ったら意外とそうではなく、地元企業がしっかりとビジネスチャンスを生かして成長している事に驚かされます。
先ほどご紹介のあったMTNというのは南アの通信会社です。西アフリカのほうまで出てきて通信ネットワークを作り上げています。それから西アフリカではレバノン資本が非常に強固に地元に根を下ろし、ネットワークを持っています。こうした企業と提携してどんどん使っていくという視点も、日本企業が出て行くときには必要だと思います。その辺りはすごくよく分かる話です。
サヘル地域ですが、非常に難しいところあります。赤道直下辺りから北に100~200キロほどは非常に肥沃、しかしそこから北に行きサハラ砂漠に近づくと、非常に厳しい気候になります。年のうち3分の2くらいは日照り、乾燥が強く、耕作ができるのは1年の4分の1から5分の1くらいの期間しかありません。やっと雨が降るその期間に耕作をしなければいけないということで、ちょっとした気候の変動などで大きな問題が生じる地域です。その地域というのは、荒涼としていて人間活動ができないところかというとそうではなく、商業活動が非常に盛んです。砂漠というのは決して不毛なところではなく、いわば広大な海です。砂漠の向こう側はちょうど北アフリカで、北アフリカのいろいろな富と、南アフリカの赤道地域の非常に豊かな農産物資源などをずっと交易しているのがサヘル地域の実態です。その中で今おっしゃったようなゲリラの問題等が出てくるのは、そうしたちょっとした気候変動などで生じてしまういろいろな社会の矛盾にそういう人達が付け込んでいってしまうということです。特に最近はリビアがガタガタになり、リビアでもともと大変な武器を持っていた人達がみんなそれをビジネスにしてしまうという事があって、サヘル地域で次から次にいろいろなことが起こっています。マリで起こりましたし、イナメナスの事件はそのひとつの象徴です。一方で今は中央アフリカ、南スーダンで起こっているようなことも若干それに関係しているかもしれません。そうした事が次から次に起こっているという事です。日本の考え方としては、まずとにかくそこの応急手当てをしなければいけないという事で、そういう難民の人達が出てきたり、あるいは非常に秩序が乱れてしまったことに対して手当てをするための支援を考えています。お配りした総理のアフリカ訪問の中でも、「平和と安定への貢献」という事で全体成果の中に書いています。積極的平和主義に基づき、南スーダン、サヘル地域、中央アフリカを含む紛争等への対応のために3億2,000万ドルの支援の用意を表明しました。これで応急手当のためのプロジェクトを進めていこうと考えています。一方で一番大事なのは根本治療でして、それはやはりおっしゃったとおり、その地域は非常に強い農業開発の潜在性を持っているという事もありますので、そうしたところで、各地域がより良く発展できるような経済開発に導くことが非常に大事だと思います。 - 乾英二
JICAアフリカ部長 -
テロの裏には貧困と格差があり、基本的には生計がたち、物がきちんと考えられないとテロにも陥りやすく、例えば教育や農業を、彼らのやり方に沿って教えるという事をサヘルでもやっています。もうひとつ重要なのは、今、騒動がおこっているところは難しいですが、例えばブルキナファソやまだそうなっていないところを、そうなる前に生計向上や教育をきちんとするという事に我々も取組んでいます。
もうひとつIT、携帯電話の件は、例えばM-PESAといって携帯電話を使ってお金をやり取りするような事が、東アフリカでは普通に行なわれています。あのような使い方を、誰が考えるかというとアフリカ人だと思うわけです。そこの人と一緒に考えずして、日本のIT企業の次の発展はないのではないかと考えますので、ヒントを逆にアフリカから得ることがこれからのITを伸ばす中では必要だと思います。 - モデレーター 岡田教授
- 堂道さん、何かございますか?
- 堂道雅治
三菱商事(株)経済協力部長 - 特にニジェールについて語る術がないのですが、アフリカのひとつの悩みは54か国をどうやってカバーするのだという事です。アフリカと言う括りで捉えるのではなく、もっと会社ごとに国、地域を絞って行く方がビジネスの観点では良いのではないかと思います。そういう時期がそろそろ来ているのではないかと思います。
- モデレーター 岡田教授
- ありがとうございます。では時間ですので1件だけ、手短にお願いします。
- 質問者:イロ・カザ・イブラヒム
(ニジェール) - ニジェールの人間ですが、アフリカの為に会議を作って戴いて感謝致します。ひとつ質問をしたいと思いますが、ニジェールと日本の間は、協力隊のほうでも、外務省のほうでもやって戴いていますが、民間企業としてのビジネスのほうは、日本から見るとどうなるかという事です。
- 乾英二
JICAアフリカ部長) -
協力隊については、おっしゃるとおりアフリカの中では1、2を争うくらい実績のある国で、古くから出している国です。ただ、今のところはやはり治安状況の問題がありまして、新規に派遣がないという事で、すでに撤退しています。ただ、ニアメ首都圏の近くの技術協力については引き続き継続しており、治安状況を見極めているというのが現状です。ウランなど、ビジネスの関係でも昔から長い付き合いをしている国だと思っていますし、ひとつの大切な国だということで我々も継続してお付き合い戴いているというのが現状です。
- モデレーター 岡田教授
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ありがとうございます。あっという間に1時間10分ほど経ってしまいました。まだまだご質問等あるかと思いますが、この後はもしよろしければ個人的に質問して戴ければと思います。私自身、アフリカに進出している日本企業や、それに限らず数々の企業の事例を研究していますが、多くの企業が自社単独でなく、政府、国際機関、非営利組織との連携が極めて重要だったと結果的に学習しているケースが多いです。ぜひこういう場を活用し、今後も官民、それに学も加えて戴いて交流を活発にしていきたいと思います。本日はパネリストの皆様、オーディエンスの皆様、ありがとうございました。
- 主催者挨拶:松浦晃一郎 アフリカ協会会長・日仏会館理事長
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それでは最後に、主催者を代表して私からパネリストの皆様へお礼と共に、私なりに感じたことを簡単にご紹介します。丸紅の方が37年アフリカとのお付き合いがあるとおっしゃいましたが、私は53年です。私は外務省に40年奉職しましたが、最初に勤務したのが西アフリカで、1961年の9月にガーナに着任し西アフリカ10か国を担当しました。本省に帰り、経済局や経済協力局、特に経済協力局(今の国際協力局)に長く籍を置いてODAの担当、最後は経済協力局長をしました。例えばジョモケニアッタ大学は、経済協力局にいた頃に、最初はプロジェクト技術協力として始めました。プロジェクト技術協力として力を入れてやったのでこれが大学になり、私が経済協力局長のときに、ぜひジョモケニアッタ大学を東アフリカの拠点にしたい、無償でさらに建物を建て増したいという要請があり、これに応じました。私がユネスコ事務局長時代に訪れて、その話を当時のケニアの大統領(同大学の学長を兼任)にしましたら喜んで、大学の卒業式に招かれて名誉博士号を戴きました。
それからニジェールの方もおられますが、ニジェールは私が外務省の経済開発協力課長をしていた時に外務担当大臣が来られて、日本に何かして欲しいというので、私が団長でJICAの方と現地に乗り込み、ひとつは無償、ひとつは青年協力隊を出すべきだろうという事で始まったものです。今お話を聞いて、この50年余りに日本とアフリカの関係がいろいろな形で深まっている事を非常に嬉しく思います。まだまだ深めて欲しいと思います。
よくODAから民間投資へと言われますが、ODAと民間投資両方が相携えて伸びなければいけないと思います。私が経済協力局の政策課長をしていたのは1980年からですが、当時私は日本のODAのあり方から、2国間のODAをアジア中心からもっとグローバルにしなくてはならない、アジアのシェアは70%に落とし、アフリカ10%、中近東10%、中南米10%ということを提唱し、よくいろいろな方からアフリカ10%なんて無茶だ、それだけの重要性をアフリカは持っているのか、さらに言えばこのアフリカの吸収能力から言って10%いくのかという疑問も呈されました。しかし、私は頑張りまして、すぐに達成できなくてもODAの10%はアフリカに向けるべきであるという事を提唱し続けました。今20%になっています。TICADを始めた時には、外務審議官として、細川総理のもとで事務局長をやっていました。TICADの1回目は非常に良いイニシアティブで、まさに日本とアフリカの関係を更に飛躍させるものとなりました。その後、回を重ねて5回となり、非常に充実したものになりました。
今日は、いろいろのお話を伺い非常に嬉しく思いました。例えばコートジボワールも、最初に訪れた日本人の1人だと思います。私は62年9月、独立したばかりの同国を訪れましたが日本人はゼロです。その後大洋漁業の方が1人来られました。50年前に比べると、今のコートジボワールとの関係は隔世の感があると思います。これはひとつひとつの国にみんな当てはまる事ですが、ぜひこれからもアフリカとの関係をしっかり進めて戴きたいと思います。
それから、アフリカ協会の会長として一言PRさせて戴きますと、これだけ日本の一般の方がアフリカに注目して戴いているので、ぜひアフリカ協会としてもアフリカと日本の相互理解を深める、あるいは交流を深める、多少でも日本から進出される企業のお役に立ちたいと思っております。ぜひ皆さん方もアフリカ協会にご協力戴ければ有り難いと思います。最後に、今日のご出席のお礼と共にお願いをさせて戴きました。今日はありがとうございました。(文責・編集 アフリカ協会理事 淺野昌宏)
アフリカ協会主催
アフリカ協会・日仏会館共催シンポジウム 議事録
第5回アフリカ開発会議は何を残したか?–アフリカの挑戦と日本の挑戦–
- ■日 時:平成25年10月18日(金)16:00~18:00
- ■場 所:日仏会館ホール(1F) 渋谷区恵比寿3-9-25
- ■パネリスト:ジェローム クロー ウエア、駐日コートジボワール大使閣下、
ジャン-クリストフ ベリアール、フランス外務省アフリカ・インド洋局長 、
岡村善文 、外務省アフリカ部長 、石井淳子、 JETRO途上国貿易開発部長、
関山護、経済同友会TICADV PT委員長(丸紅副会長)、横井靖彦、豊田通商副社長 - ■モデレータ:片岡貞治 早稲田大学国際学術院教授
■参加者:仏語圏在京大使館、外務省、経産省、公的機関、民間企業、研究者など
128名
- 開会の挨拶 : 松浦晃一郎 アフリカ協会会長、日仏会館理事長
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アフリカ協会の会長と、ここの日仏会館の理事長という2つの資格で一言ご挨拶を申し上げます。2年前、この場所で、アフリカ協会と日仏会館の共催でアフリカ関係のシンポジウムを開きました。その時は服部禮次郎会長がご健在で、まずは服部禮次郎会長にご挨拶戴いて、それから私がご挨拶致しました。ご承知の通り残念ながら今年の1月にお亡くなりになられ、私が会長を引き継ぎ、新しい体制に移行しつつあります。ぜひ引き続き皆様のご協力を戴きたいと存じます。
今日は、フランスのマセ大使においで戴き、加えて大勢の東京駐在アフリカ大使にもおいで戴き大変嬉しく思います。考えてみますと、6月前半に重要な行事が2つありました。1つはTICAD Vで、20年前、外務審議官をしており、第1回TICADの事務局長を務めました。当時の細川総理にお仕えして第1回を企画し、かつ事務局のトップを務めたのでTICADのプロセスは個人的にも非常に懐かしく、非常に重要なプロセスです。回を重ねる度に多くのアフリカの首脳においで戴いて、非常に盛会になってきて嬉しく思っております。重要なことは、日本とアフリカ諸国が協力してTICADの結論をしっかり実施していく事だと思います。
もう1つ重要なのは、フランスのオランド大統領の国賓としての訪問で、これはミッテラン大統領、シラク大統領に続く、3番目のフランスの現職の大統領の訪日です。私はいずれも関係し、特に2回目は駐仏大使の時で、シラク大統領のお供をしてずっとご一緒したこともあり、今回もオランド大統領に何度かお目にかかれて非常に嬉しく思いました。
そして、重要な共同声明が発表され、2国間の協力を進めるだけではなくグローバルな観点から、日仏関係の新しい展開を強調したものであります。そのグローバルな協力をする時には、公的部門、政府同士の協力だけではなく、民間部門の協力も非常に重要になります。
今回は、フランスのベリアール局長にもわざわざおいで戴き、日本側も外務省の岡村アフリカ部長にもおいで戴いておりますが、同時に日本側の民間の関係者として丸紅、豊田通商にもおいで戴いて私は非常に嬉しく思っています。やはり民間の協力がこれから益々重要になりますので、そういう事も今日はしっかりと議論が行われれば嬉しいと思います。
- ご挨拶: クリスチャン・マセ駐日フランス特命全権大使
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松浦さんと共に、今日のシンポジウムが開ける事をとても嬉しく思います。TICADはとても重要な機会であり、私たちの開発担当大臣パスカル・カンファン氏も参加致しました。
TICADが重要な機会であったと言うのは、多くの方々が参加し、とても質の高いもので、ここにいらっしゃるアフリカ各国の大使の方々にもお礼を申し上げます。又、ベリアール氏にお礼を申し上げたいと思います。ベリアール氏はパリから来て下さいましたが、アフリカ・インド洋局長で、フランスのアフリカ政策に対する、重要な役割を演じているアクターと言っていいでしょう。同時に、ビジョンを持ってアフリカ協会と協力をされている日仏会館に対して称賛の念をささげたいと思います。「アフリカ開発会議は何を残したのか?」というテーマを選んでくださいました。このテーマはとても重要だと思います。なぜならこのテーマはアフリカにとって重要であり、21世紀の重要なテーマだと言えると思います。
フランスにはジャン・ミッシェル・セベリーノというアフリカの専門家がおり、世銀の副総裁でした。「アフリカの時間」という本で、アフリカはどのように進んでいくのか、そして私たちはどういう状況にあるのかを問い掛けています。日仏両国共こうしたアフリカ振興の重要性に対し同じ考えを持っています。同じ価値を持ち、パートナーシップに対するセンスも同じで、同じような取り組みを行っています。同時に、よりグローバルなアプローチ、グローバルなビジョンを作ろうと思っています。そこでは、開発と経済だけではなく政治、治安の問題も組み合わせた形でのビジョンを持ってアフリカに取り組もうとしています。こうして、日本とフランスはとても相互補完的な関係を持つ自然なパートナーと言っていいでしょう。すなわちアフリカと共に仕事をする際、日本とフランスはパートナーとなる事ができると思うのです。
フランス大統領フランソワ・オランド氏が、日本を公式訪問した際にアフリカの事について多く話し合いました。丁度TICADの後にこの訪問が行われた事もあり、フランス、日本、アフリカは本当に素晴らしいポテンシャル中にあると思うのです。勿論、その関係は他の国にも開かれており、何ができるかを検討すべきでしょう。今日のシンポジウムの議論によって、幾つかのアイディアや道筋が切り開かれるのではないかと思います。
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シンポジウム
- モデレーター・片岡貞治
早稲田大学国際学術院教授・国際研究所長、アフリカ協会理事 -
アフリカ協会の理事で、早稲田大学で「African Politics」を教えている片岡貞治です。フランスとも長い付き合いでして、フランスとアフリカ、フランス語圏アフリカ諸国、フランスのアフリカ政策、このフランスあるいはFrancophone Africa、日本のアフリカ政策、TICADVを結び付けながら、今回の議論を展開して行きたいと思います。
今回のテーマは「TICADVは何を残したか?」ですが、そのTICADVキパーソンであり、陣頭指揮を執った外務省アフリカ部長の岡村善文様に、簡単にTICADVの総括をして戴きたいと思います。
- 岡村 善文
外務省・アフリカ部長 - 今回のTICADの主役はやはりアフリカの皆様でした。6月1-3日、横浜のパシフィコ横浜で開催し、元首クラスの方々が果たして何人来てくれるかと心配したのですが、結果は51カ国から首脳の方々は39名で、あの小さなエリアにそれだけの数の大統領、首相といった方々が来られました。国際機関からも潘基文国連事務総長、キム世銀総裁、ドラミニ・ズマAU委員長、そうした方々のみならず開発に関係する国際機関、NGOの方々が非常に大挙して参加されました。
もっとすごかったのは、会議の隣で行ったサイドイベントといわれるものです。NGOの方々、アフリカに関係する方々、ビジネスの方々がシンポジウムあるいは展示会を開いたということです。そうした展示を3日間にわたり行い、参加者が6万人、アフリカをめぐって大変な熱意がTICADの場で実現しました。裏で準備をしてきた人間として、最も嬉しく思ったものです。
TICADというのはアフリカと日本との間で、アフリカの開発について議論していこうという会議です。先ほど松浦大使が一番最初のオーガナイザーだというご紹介があり、感慨深いものがあります。20年に亘って松浦大使から始められたTICADを、私が今、20年後にこうしてまた開くことができたという事で、非常に誇りに思っております。
去年から出来るだけアフリカの方々に、このTICADでは何をしたらよいかを聞くようにしました。そうすると、答えはどの国に聞いても「もう援助の時代ではない、ビジネスだ、すなわち投資と貿易だ」という事でした。その結果「投資と貿易」という問題に焦点が当たったということです。「横浜宣言」「横浜行動計画」という2つの文書を採択致しましたが、これは今後5年間、日本がアフリカに対して、アフリカもアフリカ自身の中で日本に対して何をやっていくかという事を、きちっと明かにしたものです。
その中で、アフリカの諸問題を全てカバーする様にはしましたが、一番の焦点はビジネスを深めて行くという事です。我々はそれを「質の高い成長」と名付けました。過去10年間においてサブサハラ・アフリカで6%近い成長を遂げていますが、アフリカ自身の繁栄に繋がる成長にして行かねばいけないという事です。その為に、数字だけでは満足できない種々の問題があり、例えば、ビジネスをやる場合のインフラ、雇用の面で言うと労働者の水準、あるいは社会問題、村々に行けば貧困の問題もあります。この様な点を、しっかりと助けて行く事によって、アフリカ全体10億の人口がビジネスにとって良い市場になります。そして日本のビジネスが、アフリカにどんどん入って行ける様にする為に何をしたら良いかという事を議論し、決めた訳です。
それと同時に、我々は平和と安全の問題にも力を入れて議論を致しました。アフリカの中では、未だ不安定な要素があり、TICADを開く前に起こったイナメナスのテロの襲撃など、繰り返されない様にして行かなければいけません。アフリカの平和と安定の問題は、日本にとっても決して遠くの世界の話ではないという事を、強く認識したわけです。そうした観点から、TICADは非常に大きな成果を生んだと思います。
農業の問題も我々は取り上げました。農業は、これまで食糧の観点から議論され、お腹を膨らませる為の、少なくとも飢えを防ぐ為の協力でした。農民の人たちにもっとより良い農業の技術を学んでもらい、土地を耕し、たくさん農産品を生産できるようにする努力してきました。日本はコメの増産計画を、5年前のTICADで打ち出して、10年間かけて生産量を倍増する計画は着々と進んでいます。 ただ、今回はたくさん作るだけではなく、農民を成長の原動力にして行くという考え方を打ち出した訳です。ただ単に食べるための農業ではなく、稼ぐための農業にします。そうしたダイナミックな考え方を打ち出した裏にあるのは、アフリカの成長を支えるという所にあります。
TICADがどうしてこれだけアフリカの方々に受け入れられ、そして発展してきたのでしょうか。20年に亘って5年ごとに、次もやろう、もう1回やろう、もう1回やろうと言って続けてきた訳です。そして、こうしたものに成長してきた裏には、やはりTICADが持っていた基本的なものの考え方が、アフリカの人たちにはとても大事な事だったと思います。
幾つかの基本コンセプトがありますが、1つはオーナーシップです。オーナーシップとは、何かをやるのに相手に「助けてください」と言うのではなく、自分で自分を助けようとする、それを手伝ってもらおうという事です。日本はアフリカの人たちに「我々はただ単に援助をする国、そしてあなた方は被援助国では決してありません。アフリカがアフリカ自身でなんとかしようとするのに対して我々は手助けをするのですよ」と言ったのです。これは松浦大使が始められた最初の時から、それがしっかりした考え方としてあった訳です。アフリカの人たちは「自分のことは自分でやりなさい」と言われたのを、突き放した考え方だとは決して思わなかったのです。何故かというと、アフリカの人たちは基本的にこれまで何と言われていたかというと「あなた方が自分で考えたことはあまり立派なことではありません。教えてあげるから、教えられた通りやりなさい」と言われてきました。ところが日本のアプローチは違いました。「自分で考えなさい」と、これは非常にアフリカを信頼した考え方だと評価されたと私は信じております。
2番目は、貧困の問題です。アジアだって同じように貧困の問題を抱えていましが、アジアは、今20年・30年たって克服しています。国内の経済を成長させて、繁栄を築くことによって貧困の問題というのを克服してきました。この視点はTICADの一番最初からありました。TICADの基になった考え方というのは「アジアの経験をアフリカに」という事であり、今もアフリカの人たちはアジアに目を向けています。
TICADというのは日本とアフリカの関係ですが、実はアフリカの人たちは日本を通じてアジアの発展のやり方を、是非アフリカにも同じようにもたらそうと考えておられると聞いています。こうしたTICADの一貫した考え方はきちっと伝統的に受け継いできましたし、将に今回のTICADVはアフリカの方々の方から「ビジネスだ、成長だ」という事を強く訴えて、日本はそれに応じた支援の計画をこれから立てて行こうという事で進んでいる訳です。 - モデレーター・片岡教授
- TICADVは日本のアフリカ外交の大きな転換点でした。それは、「援助だけではなく貿易、投資も重要である」という非常に力強いメッセージが発せられた事でした。
さて、ここでTICADVの主役であるアフリカ側の声をまず伺いたいと思います。駐日コートジボワールのウェア大使よりアフリカ側から見たTICADというものを、是非ご披露戴ければと思います。 - ジェローム クロー ウエア
駐日コートジボワール大使閣下 - 今日のシンポジウムはTICADVの結果についてお話をし、それを通じて日本とアフリカとの交流について考える訳です。その中で、私は日本とコートジボワールの関係を強調してお話したいと思います。アフリカの国々はさまざまな類似点を持っており、コートジボワールを通じて、アフリカの他の国のビジョンも見て戴きたいと思います。
先ほど岡村大使がお話の中で平和と安全についてお話を下さいました。我が国は、将に安全を必要としている国でした。今その安全は確立されつつあるところです。平和と安全についてお話をし、日本の方々に安心して戴きたいと思います。今日ではコートジボワールは安全な国となりました。それは国際社会の援助のおかげでもあります。そしてマリでも安全の問題がありますが徐々に安定化の道に向かっています。
20年前にTICADが開始された時に、アフリカの未来を信じるような国や国際機関はほとんどありませんでした。フランスの場合はフランス・アフリカ首脳会談がありましたが、そのようなアフリカとの首脳会議を考えるような国は存在していなかったのです。アフリカの首脳たちは日本の取ったこのイニシアチブを本当に理解し、受け入れました。そうした為に、今回のTICADVにも多数の首脳が参加し、現在ではアフリカ連合委員会も共催者となっています。
私たちの国がTICADに対して多大な関心を持っている事は、今回ワタラ大統領本人が民間経済人を含む大代表団を率いて参加をした事でもお判り戴けるでしょう。そして活発に会議やイベントに参加し、特にJICA主催のハイレベルパネルやJETROによって開催された見本市に参加致しました。
10年間の危機を抜け出したコートジボワールの社会経済の状況に触れます。横浜行動計画の枠組みの中で、わが政府は3つの行動計画を作り実施しています。第1の軸が「平和と安全」。第2の軸が「国民和解と社会の団結」、第3の軸が「経済的な復興と飛躍」です。
第1の「平和と安全」に関してですが、安全レベルは平常なものになりました。国連の危険指標は2011年には3.8であったものが、2013年5月で1.6になりました。 政府は幾つかの措置を取り、まず大統領の下に国内外の治安問題の調整を図る国家安全評議会CNSを設置しました。危機が去った後、武装解除の問題が起きました。武装解除・除隊・社会復帰局ADDRを設けました。又、悪質犯やテロ対策の為の機関として機動作戦調整センターCCDOが作られました。
第2の「国民和解と社会の団結」は重要です。危機は去りましたが、10年間続きましたので、国民は分裂しています。国民の和解を図り団結をして前進を図らなければいけません。その為に具体的な行動が幾つか取られ、司法当局は選挙後の混乱で投獄されていた元大統領に近い人々を釈放しました。又、常設政治対話懇談会CPDが作られました。その中で、11の政党を、旧与党中心にまとめ、野党の懸念を話し合います。これらはコナン・バニー首相が率いる対話・真実・和解 委員会を補完するものです。
第3の「経済復興と飛躍」は経済活動の再活性化ですが、予想よりも早く進んでいます。危機が終わった2011年度の成長率は-4.7%でしたが2012年には9.8%となりました。2013年には若干下がるものの、2014年には10%達成が予想されています。
この様な展望がありますが、経済成長だけでは駄目で、そこからくる利益を雇用、特に若者の雇用に繋げなければなりません。この為政府は2012-2015年の3ヶ年計画を作りました。この国家計画の資金調達の為にパリで12月に援助協議会合CGが開かれました。会合で期待していた額の2倍の資金を確保出来ました。8億6,400万円に相当する43.19億フランCFAの資金です。
しっかりした経済成長のお陰で、たくさんの経済視察団が来る様になりました。日本との関係では、危機の間、閉められていたJICAオフィスが2011年11月に再開されました。JETROオフィスも2010年12月に再開されました。そして味の素グループの工場が、今年の5月にできました。危機の間、チュニスに移っていたアフリカ開発銀行の本部は2014年第1四半期の間にアビジャンに戻る予定です。
この様な経済成長を強化する為、政府は努力を続けておりますが、農業、水産品の加工を優先しています。まず、カカオは2012年130万トンで世界一の生産国で、カシューナッツは世界第2位、コーヒーはアフリカで第3位です。水産業ではマグロ船のアフリカ第1寄港を誇っています。もちろん構造改革を進めています。エネルギー・鉱業も有望です。新たな沖合油田や金鉱が発見されています。日本のパートナーの方たちからの協力を歓迎したいという事です。
最後に申し上げたいのは、コートジボワールと日本との関係です。53年前から外交関係を結んでおり、このように危機という難しい時期に日本はいつも私たちに付き添って下さいました。コートジボワール国民から日本政府、日本国民の方々に対して感謝を申し上げたいと思います。残念ながら、貿易面は両国の潜在力ほど多くはありません。是非、活発にしたい処です。日本の実業家の方たちに申し上げたいと思います。コートジボワールは安全な国となりました。そして政府は今外国からの投資を歓迎し、ビジネス環境をよくするための努力を行っています。新たな投資法を制定し、商業裁判所が作られました。かつては紛争があったとしても商業裁判所がないために裁判をすることができませんでしたが、今はそれを補うことになりました。さらに、企業設立コストの削減-手続きの簡素化、日数の短縮-、貿易窓口の一本化、官民連携促進PPPの法的枠組の設定、特定産業-電力、鉱業、石油-の規制見直しなど進めました。結果として、世銀の評価は、12年には3.1/6と前年の2.9から改善しました。もちろん民間部門からの支援がなければ、公的な枠組みの中では本当にビジネスを発展させることができません。投資法ではさまざまの優遇措置を企業に対して設けております。さまざまな規則もそこに定められている訳ですが、法的なかたちで開発のためのパートナーに対して優遇措置を取ることになっております。
これは、将にTICADで決められたことの実行の一つです。アフリカは日本に多くのものを期待しています。また、日本に対する期待をしている為にTICADで定められた考え方、即ちビジネスの関係強化をするという事を我々は実行しております。 - モデレーター・片岡教授
- ウェア大使からのメッセージは、最近のコートジボワール情勢・平和や安全保障・国民和解、それから経済指標が非常によくなり、TICADVを通じてアフリカも、コートジボワールも日本に期待しているという事です。又、ここにいらっしゃる日本のビジネスマンに、是非コートジボワールのみならずアフリカに来て欲しいという強いメッセージも放たれました。
次の方はフランス外務省のアフリカ・インド洋局長で、かつてはマダガスカル、エチオピアで大使として勤務されておりました ジャン クリストフ ベリアールさんです。 - ジャン-クリストフ ベリアール
フランス外務省アフリカ・インド洋局長 - 最初に、日本がアフリカでされている仕事について称賛を捧げたいと思います。又、日本とフランスのアフリカに対する見方が一致している事を強調したいと思います。私たちは全てにおいて意見の一致を見ています。日本とフランスはアフリカにおいて同じような価値観を共有しています。民主主義、グッドガバナンス、持続可能な開発などです。又、同じ目的を共有しています。アフリカの安定です。アフリカはもはや1つの重荷ではありません。希望としてのアフリカです。そして30年後には15億の人口を持ち、若い人口・都市化・中産階級の発展です。
今、経済成長率の平均は6.5%であり、世界平均より上回っています。エチオピアのメレス首相の考え方でしたが、恐らくアフリカが世界の経済成長の原動力になるのではないかという事です。我々のようなヨーロッパ人、そして日本にとってアフリカは未来の市場です。かなりのビジネス、インフラなどの成果を得ることができるマージンがそこにあるのだという事です。只、世界のガバナンスにおいて、例えばIMF・世銀・国連安全保障理事会・G20、その中でアフリカはアフリカにふさわしい位置を知るべきだという考え方があります。この点において、日本がG8の中で原動力となりアフリカアジャンダを促進して下さいました。アフリカアジャンダは今も擁護されています。
又、アフリカに対しては幾つかの懸念もあります。今日、懸念されている事は治安であり、例えば海賊、テロの問題です。現在、サヘル地域でテロが増えております。このテロリズム、安全の欠如は我々がアフリカの経済開発で持っている希望を危うくするものです。
この様に安全の問題はとても重要です。フランスはTICADの仕事に対し、称賛を送りたいと思います。アフリカに対して興味を持ち続け、かつ支援を提供しておられるという事です。そして、コンセプトの面で転換をされた事があります。つまり日本の方からジブチに対して自衛隊の軍艦を送りました。また同時に日本はブルーヘルメットを既にもう展開しています。この事は我々にとってはとても良いニュースです。
2010年は、アフリカに関して重い年でした。1月11日、フランスは非常に強力なやり方でマリに対して軍事介入を行いました。フランスがそれを行ったのは、マリの大統領が我々に助けを求めてきたからです。テロリストたちがマリ全国に対して支配力を伸ばそうとし、かつその地域全体に支配力を伸ばそうとしていたからです。
このマリの事件について重要なことは、軍事介入を行う前にフランスはかなり大掛かりなかたちでアフリカの当該地域について諮問を行いました。ECOWASの国々とも話をしました。ナイジェリア・コートジボワールなどの大統領、そしてアルジェリアの大統領にも諮問を行いました。アルジェリアはサヘルに隣接をしているからです。AU委員会のズマ委員長にも話をしました。南アフリカのズマ大統領です。 そして重要なことは数カ月後アジス・アベバでアフリカ連合の総会が開かれたとき、アフリカの首脳たちは多くの事を言いました。まず、最初は「フランス、それをしてくれて有難う、するべきであった」と言ったのです。これが第1点です。第2点は「まず、私たちに相談をしてくれて有難う。軍事介入をする前に私たちに話してくれて有難う」と言ってくれました。これは過去の軍事介入ではなかった事でした。第3点、これが一番重要な事ですが、アフリカは「フランスがそれをしたのは我々アフリカができないからだった。未来はアフリカ自身が、それができるようにならなければならない」と言ったのです。すなわち、アフリカ自体のこうした軍事面における能力の問題について考察が始まったのです。アフリカはこうした新しい考え方をしました。危機に対する緊急対応部隊という考え方です。
12月にアフリカにおける平和と安全の為のエリゼ首脳会議を開きました。平和と安全の問題です。そのテーマはアフリカが未来にその平和と安全を作る為に何ができるのか、アフリカ自身がそうした軍事力を持つことができる様に助けることができるのかという事です。即ち、教育・訓練・輸送・展開に至る迄です。力を持つのは、部隊を持つのはフランスではなくアフリカでなければならないという事でした。これこそが首脳会議の重要なテーマでした。
第2のテーマは、我々の企業についての機会としてのアフリカです。フランスの大統領がアフリカに行くとき、またフランスの大臣がアフリカに行く時にはフランスの投資だけが問題なのではないのです。フランスの大統領は南アフリカからフランスへの投資を呼び掛けました。フランスにも経済的な問題があるからです。投資の機会としてのアフリカであります。
3つ目の重要な点は気候変動の問題です。COP21の会議がフランスで行われます。フランスとアフリカの場合はこの気候変動の問題においてかなりの共通問題を持っています。それをはっきりと紙の上に書き出すことが重要だと考えたのです。
ここには1つの逆説があります。フランスが「アフリカ人自身がそれをしなければならない」と言い、マリにおいて我々は最初に軍事介入をしましたが、すぐにMISMAというアフリカ自体の部隊に対してそれを引き継ぎ、そのうちには国連に対して引き継ぎました。しかし、我々は何千人かの人々を、そうした国連の部隊に対する支援部隊としてそこに留まらせました。フランス人はアフリカ人自体がしなければならない、アフリカ人が自分でできるように助けてあげようと言っているときに新たな危機がまた起こりました。アフリカ連合の安全保障理事会は、中央アフリカに介入をしてくれないかと言ってきました。私たちはそれを望みませんでした。私たちは中央アフリカには介入ができないと言ったのです。つまりフランスは、マリと同じような行動は中央アフリカにはできないと考えました。私たちの仕事は、その地域から動員をするという事です。即ち、中部アフリカ経済同盟から人々を動員し、アフリカ委員会と共に、ズマ委員長と共に仕事をするという事です。そしてブリュッセルでヨーロッパの我々のパートナーに対して、平和の為の資金を調達する事を呼び掛けました。これはアフリカ自身が中央アフリカで作戦を行う為の資金調達をする事でした。これはフランスがソマリアでのAMISOMと呼ばれる活動に対し資金提供をしていると同じような形で資金をヨーロッパから集める事でした。そして最後に、フランスはニューヨークで活動をしました。つまりアフリカの部隊が国連からの任務を得、使命を与えられる事でした。そして国連の事務総長に対して報告書を作ってもらうように求めました。今から1カ月後に新たな決議がなされる事でしょう。マリと同じ様なシナリオを書くのですが最初はフランスが介入、次がアフリカ連合、第3が国連という事になります。ところが、中央アフリカの方はまず国連が最初に任命をし、アフリカの部隊を支援し、第2段階において国連の平和維持活動へ移っていくという事が可能になっています。やり方が変わってきています。
しかし、その際一番重要なのはアフリカ連合であり、マリの場合もそうでしたがECOWASが活躍しました。そして中央アフリカ連合が重要になりました。この様に地域連合の力を求める事が重要です。日本からも支援を戴きました。マリの問題の時はドナー国のアジス・アベバ会合に参加をし、とても寛大なやり方でアフリカのMISMA、アフリカ部隊に対して資金提供をして下さいました。後に、ブリュッセルで大きな会議がサヘルとマリについて開かれた時、また同時にかなりの資金を提供して下さいました。
今日、岡村さんとお話をさせて戴きましたが、私たちは幾つか共通の関心を持つ案件について話す事ができました。第1点はアフリカのそうした武力における能力に対する支援です。中央アフリカにおけるアフリカ連合の努力について支援をするという事です。アフリカにおける軍事力を養成するための養成センターを作っていますが、日本はコフィ・アナンセンターを既にガーナに持っておられます。我々は努力を強化し、共通の努力を行いたいと考えております。近くドナー国の会議をアフリカ連合が開く事になると思いますが、中央アフリカ共和国で起きている問題は重要です。ストラクチャーがなくなり脊椎をなくした国です。即ち、アフリカの中央にあって真ん中が軟らかくなっています。それが南スーダン、スーダンにも係ってきます。又、同時に大湖地方にも係ってくるのです。この地方はアフリカの中でも最も脆弱な地方の2つです。その頂点が、中央アフリカ共和国に集まっており、ウガンダから来た危険なジャンジャウィード、ダルフールから来たグループ、ナイジェリアからボコ・ハラムのメンバーが加わり、マリから来たグループもリビアの南・ダルフールを通って中央アフリカ共和国の武装集団に加担する可能性があります。今、我々がアフリカを安全にし、アフリカとビジネスをしようとしている時に、この中央アフリカ共和国の問題は非常に危険な案件であります。この案件について、また他の案件についてもフランスと日本の協力の余地があるでしょう。
日本がアフリカの問題についてコミットして下さっているやり方はアフリカにとってとても良いやり方だと思います。従ってそれはフランスやヨーロッパにとっても良い事になります。我々は共通の国境を持っています。もしアフリカが安全になったら得をするのはヨーロッパです。日本の努力、ヨーロッパの努力は完全に相互補完的です。その点において日本の活動について称賛を送りたいと思います。 - モデレーター・片岡教授
- 日本とフランスがアフリカに対して協力することはたくさんあります。目的や価値観を共有すると共に、懸念も共有しています。その懸念に関しては、昨今、世界を震撼させているアルカイダ系テロリストが西から東まで接近しています。そういった事に対しても日仏で協力することもできますし、本日の日仏のアフリカ協議ではそういった事も話してきています。
実際、フランスは今年の1月にマリで軍事介入を行い北部のイスラム勢力を駆逐しました。実施にあたっては事前に、アフリカ諸国とさまざまな意見交換をし、そうした事がAfrican Union(AU)からも評価されています。こうした危機に対しても日仏で協力することができるであろうというお話でした。
さて、それではアフリカが期待している今後の日本のビジネスの展開の方向性などに関して現場、第一線でご活躍の皆様からご意見を頂戴したいと思います。まずはJETROの石井様、よろしくお願い致します。 - 石井 淳子
JETRO途上国貿易開発部長 - 私どもの方では、いろいろな国々との貿易と投資の促進を行っており、本日はアフリカという事で、TICADという視点からお話をさせて戴きたいと思います。ODAの予算を使った活動をしている部署なので、ただ日本企業のビジネスの手伝いをするだけでなく、現地にも裨益する事を視点に仕事をしております。
世間的にはBOPと言われる、インクルーシブ・ビジネスを始める事を視野に入れている方々が増えてきており、その様な方を対象にビジネスミッションを派遣しています。先日、事務局としてケニアとエチオピアに行って参りました。機械、機械部品、医薬品、医薬系の食品の会社、商社、卸売、調査、コンサルタント、大学の先生、行政サイドからも参加戴きました。結果的には12名の方々全員が非常に強いインパクトを受けて帰ってこられました。初めは様子見で行かれた方も多かったと思いますが、今は参加者のそれぞれが、今後アフリカと関わって行こうというかなりはっきりとした意志をお持ちの様です。改めて日本企業に何ができるのか、どう貢献しながら自らも持続的なビジネスを起こしてサスティナブルな関係に持って行く事ができるのかを考える具体的なきっかけを作る事ができて、私自身も非常に有意義だったと考えております。
TICADがあり、かなりの方々がビジネス面だけではなくて文化面での、関心が高まった年ではなかったかと思います。今後は、日本もより強い関係を構築して、継続した友好関係とビジネス関係を持つべき地域として、JETROも多くのアフリカ関係情報を発信して行きます。実際に見て、触れて、体験して何ができるのかということを起業家の皆様に考えて戴ける様な事業をどんどん増やしていければと考えております。
現在、アフリカには5カ所の事務所を持っておりますが、今後の流れを見るとたぶん倍増というような話も出てきて、具体的になっていくのではないかと思います。コートジボワールのアビジャンでは、何年かぶりにまた事務所の活動を再開しました。そういった現地の事務所を使い、ビジネスの関係を駐在員が構築している中で、日本の企業がどの様にビジネスができるかというところでいろいろなプログラムを構築している訳です。
幾つかご紹介致しますと、まずはインフラを整えなくてはいけません。ビジネスインフラという意味では産業育成があります。例えばアフリカの有望な商品を発掘して、日本市場に入れるための品評会、モニタリングなどもやっております。現地で選定したものを日本の市場に持ってきて、その産業分野の専門の方に品評して戴いて、その結果この品物は可能性があるぞという物については、3~4年かけてその産業を育成し、専門家を派遣したりしながら日本への参入の手伝いをしています。
2008年から始まった事業ですが、開発輸入企画実証事業があります。アフリカの産品をそのまま持ってくるのではなくて日本の市場に合った様な形にして持ってくれば、より売れる様になるだろうという事で、アイディアを持った方々を公募致します。それで日本の企業・団体がそのアフリカ産品を開発して、その後日本に輸入して、日本で売るというプロジェクトにJETROは共に取り組んでいます。今年で6年目になります。今まではどちらかというと農業製品とか一次産品が多かったのですが、今年の対象分野にはITもありました。これからはそういった分野でもアフリカと日本が手を携えて、グローバルなビジネスの展開という事がどんどんできるようになって来るのではないかと期待をしております。TICADの時も「アフリカン・フェア」を行い、広くアフリカ産品を日本に紹介する為の展示会や特設のマーケットを運営しました。成田空港と関西空港で空港店というのをやっており「一村一品マーケット」というようなかたちで、「村」というよりは1カ国1品ではないのですけれども何品もの商品を、お客様に買って戴いて、触れて戴いて、その良さを知って戴くといったアンテナショップ的な取り組みも行っております。
反対に、日本の製品がアフリカの市場で売れるのだろうか、この産品は実際受け入れられるのだろうかという事を発見して戴く為のテスト販売などもやって行こうとしております。今年度の計画では、来年2月末にガーナとケニアのスーパーに日本コーナーを出そうとしております。
また、低所得者層、中間所得者層を対象にしたビジネスの開拓の相談に応じる窓口を設けております。情報提供というのが一番大きな仕事になりますが、個別の調査や現地に出張した際のアポイントメントを取ったり、商談のアレンジをするというお手伝いを行っております。現地に事務所がない所も出掛けて行ってお手伝いをしています。現地の商材を紹介するカタログやダイレクトリーも作成し、印刷物の他、ホームページ、電子媒体で見て戴き、どんどん紹介していきたいと思っております。1年、2年で結果が出るものではありませんが、これまでアジアで実施してきた事業の応用というような事も考えており、時間をかけてやっていくものであろうという認識です。
例えば東アフリカ地域のコーヒー豆を日本に持ってくるという事業があります。2008年に、専門家派遣を行い、アフリカファインコーヒー協会と協力をして東京での展示会への出展支援・試飲会・日本企業への新しい産地紹介などを行ってきました。その間、ケニア・タンザニア・ルワンダに焙煎業の方々とコーヒーの農園訪問をし、カッピングを現地で行ってきています。また、国内で現地生産者、輸出業者を講師に最新情報を提供するセミナーを開催し、併せて商談会を行ったりもしています。その結果、アフリカ産のコーヒーの輸入量は倍の14%に増加致しました。今年、JETROが間に入ってビジネスを取り持っていた日本とアフリカのスペシャルティー協会が覚書を締結し、今後は自らの力でコラボレーションしていく事になりました。
今世の中はものすごく速いスピードで動いており、じっくりまじめに取り組んでいる横を、全く違うコンセプトで、すごく速いスピードで通り過ぎて行く国々があります。これからはもう少し日本勢も速度を考えてビジネスに向き合っていく必要があるのではないでしょうか。先週アフリカを訪問して日本の製品が少ない事、歩いていると「ニーハオ」と声を掛けられてしまう事など、日本のプレゼンスをもう少し高めていく必要があるかなと感じております。 - モデレーター・片岡教授
- JETROが今行っているのは、日本とアフリカ、日本のビジネスマンとアフリカのローカルの製品などを結び付けるようなビジネスを支援しているという事でした。これはTICAD Vのスローガンでもあり、成長する、躍動するアフリカと手を携えてという事と大きく関係のある話かと思います。アフリカに対して日本のビジネスマンが手を携えていくという事で、本日は、その代表であるお2人をご紹介したいと思います。まずは、経済同友会を代表して、関山様宜しくお願い致します。
- 関山 護
経済同友会TICADV PT委員長(丸紅副会長) - 私は2010~2012年までの3年間、経済同友会のアフリカ委員会の委員長を務めていまして、本年2月TICADVに向けた提言を外務省に提出致しました。TICAD V支援フォローアッププロジェクトの委員長として、4月から活動を継続している次第です。
経済同友会というのは企業経営者の個人の集まりで、非常にユニークな経済団体です。歴史は70年です。経営者はお互いに議論をしてさまざまな政策・経済・社会問題について理解を深め、民間の視点から政府に対して提言を行うという事です。今日は丸紅の関山という事ではなくて、経済同友会の代表という事で参加した事をまずご理解下さい。
TICAD Ⅴの開催期間中、私はケニア・ブルキナファソ・エチオピア等、過去に訪問した国々の首脳と面談を致しました。又、公式なレセプションやAU、UNIDO共催のサイドイベントにも参加させて戴きまして、積極的に交流をさせて戴きました。首脳との面談の中でいろいろな話をさせて戴きましたけれども、いずれの首脳もおのおのの国の発展に向けて自信を持って精力的に取り組んでいます。また、今後の日本政府からの支援のみならず民間からの支援、投資の期待の高さを非常に認識した次第です。
本年2月に同友会として提出した提言は、中長期的な視野に立った日本のアフリカ戦略の策定を求める「アフリカにおける人づくり・国づくりへの貢献」「地域共同体(REC)への支援」「戦略的・柔軟なODAの活用」、最後に「より多様な資金スキームの活用」です。この4つの具体的な施策と、その施策の実効性を高める2つの環境整備、つまり日本とアフリカの人と人との交流促進、アフリカ戦略実行に向けた省庁横断的な体制構築ということを提言いたしました。
TICAD Vの日本政府が発表した「横浜行動計画」では、ODAを活用した人材育成、インフラ整備は同友会の提言でも強調した部分で、今回の「横浜行動計画」は高く評価できるものだと考えております。もちろん、これまでも日本政府は人材育成、インフラ整備という部分ではアフリカ発展に貢献してきていましたが、今回の行動宣言では新たな挑戦とも言うべき具体的なイニシアチブ、すなわち「官民の連携」という事が新しいキーワードで、これをイニシアチブとして日本政府が発表したという事だと了解しています。
まず、人材育成の面の具体的なイニシアチブではいわゆる日本への留学、日本企業でのインターンを組み合わせた安倍イニシアチブを立ち上げて、5年間で1,000人を招聘するという魅力的な発表をされています。これはいわゆる、これまでの留学に民間企業でのインターンを取り入れた新しい取り組みだと了解しております。民間企業に勤める人や推薦した人材を留学生として招いて、修士号取得に加えて民間企業でのインターンを通じて日本企業をよく知る有用な産業人材を育成するという試みだと了解しています。経済同友会としましても、同友会メンバーに積極的にこの制度を使って戦略的な人材育成に挑戦するように経営者に呼び掛けたいというふうに思っています。
アフリカは一つ一つの国の単位を捉えますと、その市場はそれほど大きいとは言えないと思っています。地域経済共同体(REC)という単位で市場を捉えれば非常に大きな有望な市場だというふうに了解しています。例えばコートジボワール1国では人口2,400万人ですが、ECOWASで捉えますと総人口は3億人に及びます。こうした国々をまたぐ道路・鉄道・港湾・送電・工業団地、こういった広域インフラを総合的に整備してアフリカを世界のサプライチェーンにつないでいきます。
そのためにも日本政府は今回、戦略的なマスタープランの作成をコミットしています。この戦略的なマスタープラン、これはプランの初期段階から企業と連携しながら作成するというもので、現地のニーズに沿ったプランを民間企業が初期の段階から関与して、いわゆる日本の得意とする地熱発電のような環境再生エネルギー分野等を盛り込んだ、日本の顔が見えるプランを作るものだと了解しています。これも新たな挑戦だと了解していまして、民間企業としても積極的に協力して行きたいと思っています。こういった戦略的マスタープランの実施段階で、経験豊富なフランス企業との連携も、例えば交通、都市基盤の計画作り、こういったもので連携してやるのも一つの可能性だと考えております。
今後、日本企業がアフリカに進出をするという事を念頭に置いた場合、やはり治安という事が大きな問題になってきます。アルジェリア、マリ等でテロリスクが高まっているという現状の状況においては日本政府とフランス政府、また他のドナー諸国との情報共有や対策、これも非常に重要になると思いますので、ぜひ両国政府で真剣に検討戴きたいと思っています。
TICAD Vが終わり、アフリカに関する情報発信が若干減っているように感じています。アフリカの発展を更に確かにするためにアフリカ、日本においては戦略的に情報発信を強化していくことも大切だと思っています。やはり我々日本国民も広大なアフリカで、今何が起きているかということを逐次分かっている必要があると思っています。
最後になりますけれども、年明けに安倍総理がアフリカを訪問されるというお話もありますので、更にアフリカ支援の機運が高まり日本・アフリカ・フランスの協力関係が更に深まることを祈念しております。 - モデレーター・片岡教授
- 副会長よりは経済同友会としての政策提言です。「REC」と言われる地域の経済協力機構、経済共同体は幾つもありますが、そのRECとの協力の重要性、必要性などが指摘され、更に安全保障面では更なる日仏並びに政府の関与の必要性も指摘されました。
さて、フランスの古くからあるアフリカにおける最大の専門商社であるCFAOを豊田通商が、2012年12月に買収致しました。この買収劇はフランス並びにアフリカでも注目されています。買収を行った豊田通商の横井副社長よりお願い致したいと思います。 - 横井靖彦
豊田通商副社長 - 昨年CFAO社を買収いたしましたが、アフリカの成長のために我々がどう貢献していくのか、あるいはアフリカ市場をどう攻略していくのかという意味で、この日本とアフリカの組み合わせは相互補完的なものになるだろうと思っております。
まず最初に、CFAOという会社はどういう会社なのかを簡単にご紹介をしておきます。CFAOとは「西アフリカのフランスの会社」という意味で、1887年に設立した125年の歴史を持つアフリカ専門のフランス最大の会社です。従業員が約1万1,000名おり、その大半がアフリカ人で、本部はパリにあります。事業の内容としては、大体半分強が自動車の輸入・販売で、それ以外に医薬品の輸入卸、飲料の生産販売、更にはプラスチックの製造等々を行っており、日本の総合商社に近い内容です。昨年12月にこのCFAOのTOBを完了致しました。2,300億円強という、我が社に取って見れば純利益の3~4年分に相当する大変大きな金額を投じたわけです。
では、なぜこんな金額を、一般的にはまだ十分に伸びていく事が確信できていないこの時期に投入することができたのか、そして、今後このCFAOと我々がいかにしてアフリカの成長に貢献し、ビジネスを築いて行くのかについてお話をしたいと思います。
まず豊田通商は、アフリカとの関わりが大変深く、90年前にエジプトで綿花の取引を始めたのが最初でした。そして現在の当社の事業の主流となっている自動車販売事業は、約50年前にケニアにランドクルーザーを輸出した事から始まります。それ以降、トレードを中心としてきましたが、大きな転換点となったのは1990年代の終わりから2000年の初め
にかけて、幾つかの国で自動車販売代理店事業を始めた事にあります。幾つかの会社を買収し、従来の輸出あるいはシッパーというビジネスから、事業投資へ転じ、更には車の販売というBtoCのビジネスを通じアフリカ市場の内側に入って行きました。このことは大変大きな意味があります。シッパーとか輸出というのは外からしか市場を見ていません。その為起こった事しか判りません。しかしながら、BtoCをスタートしたてアフリカ市場を内側から見る事により、日々の事業活動を通してアフリカの将来性、成長性あるいはアフリカの人々のニーズ、困り事を、肌で感じる事ができます。
この10年間その事により、単に車を売るだけでなく、お客様がより求めやすいようなスキームの提案、例えばファイナンスを提供したり、新車は買えないけれども中古車だったら買えるというお客様には中古車を提供したりして、ビジネスを広げてきました。そこで出来上がった知見や人脈を活用しながら、今ではエネルギー、インフラ関連にもビジネスを拡大しています。
さて、アフリカというマーケットでは、日々のビジネスを通してその成長性を実感しており、例えば車のマーケットは、2000年にアフリカ全体で75万台であったものが、2010年には150万台、ちょうど倍になっています。この勢いは今でも続いています。当社は、東、南の英語圏を中心にビジネスを展開し、現在8カ国で代理店を経営し、約30カ国で車両輸出及びマーケティングの支援をしています。私どもの8カ国の代理店のトップはアフリカの人たちで、非常に優秀な人たちがいます。東アフリカについては、彼らの人脈を使いながら、資源・エネルギー、インフラといった自動車以外の分野にもビジネスを展開しつつあります。
しかし、西アフリカ、北アフリカでは、私どもはストレンジャーという状態でした。一部トレードはやっていましたが、我々の知識、知見は限られておりました。そういう中で、パートナーが必要だと考える様になり、CFAOという会社と、何かアライアンスが組めないかと、業務提携等々いろいろ検討していました。残念ながら、その当時は買収にはつながりませんでしたが、常に西アフリカに対してどういう形で入って行く事ができるのかと考えていた為に、CFAOの株式売却の話をいち早くキャッチする事ができ、また社内的にも議論を積み重ねていましたから、これだけの金額を投入してでも買収しようと決める事ができました。まさに普段よりアフリカでのビジネスについて関心を持っていた事がこのCFAOの買収につながったと思います。
さて、CFAOと提携したから、西アフリカの展開がこれで万全かというと、そうではありません。このCFAOという会社は歴史が長くフランスでも非常に尊敬されており、アフリカでは最も知られている会社です。その為、私どもが最も注意をしたポイントは、日本の会社にはしないということです。我々は98%のシェアを獲得しましたが、同社は未だにユーロネクストのフランス市場に上場を維持しております。また、経営陣も従来どおり引き継ぎ、できるだけ日本からの派遣を少なくしております。そして常にCFAOと豊田通商の双方が成長できるようなwin-winの成長路線を描く事を意図し、お互いのコミュニケーションを深め、戦略の議論を続けております。
CFAOとの今後のアフリカ攻略を3つの切り口で考えています。1つはそれぞれがフランスあるいは日本のリーディングカンパニーをアフリカに誘致し、それを広めていくという事です。例えば、株主になって最初に決めた事は、世界ナンバー2のスーパーマーケットであるカルフールとジョイントベンチャーを組み、西アフリカを中心に8カ国で、これから10年ぐらいのスパンで約100店のショッピングセンターあるいはショッピングモールを作る事です。その第1号店は、アビジャンで2015年にスタートし、その後順次展開して行きます。フランスではこれ以外にも、ペルノ、リカールあるいはダノン等々世界有数の企業があり、これをアフリカに誘致できないかと考えています。同時に日本のリーディング企業にぜひ、我々を窓口にしてアフリカに進出して出て戴きたいと思います。2つ目は相互に持っているビジネスの強みへの相乗りです。豊田通商は商社としてインフラ・エネルギー・資源等々、CFAOの持っていない事業を西アフリカで展開できます。あるいは、逆にCFAOの持っている大変強い医薬品ビジネス等々については、東アフリカへ、更にはアフリカ以外の地域へも展開ができないかと考えています。まさにこの事がwin-winの関係だと思っています。そして最後は、相互のビジネスのクオリティーを上げて行く事です。既に一部スタートしていますが、物流あるいは業務オペレーション等で、私どもからも人材を派遣し、現場の改善を進めています。
このチャレンジはスタートして1年にも満たない所で、まだ実現できていない事をお話しするのは若干口幅ったい所がありますが、高い目線に目標を置きながらアフリカの開発あるいは成長に向けてフランス企業と一緒に頑張って行きたいと思っております。 - モデレーター・片岡教授
- CFAOの買収、日仏でwin-winのストラテジーを築いてアフリカに進出していきます。カルフールの第1号店がコートジボワールにオープンするということでございました。
さて、まだ時間がございます。せっかくですので、フロアをオープンしたいと思いますが、どなたか最初にご自由に、ぜひ。まずはモロッコ大使からです。 - サミール アルール
駐日モロッコ特命全権大使閣下 - 少しコメントをさせて戴きたいと思います。今、私たちがこの素晴らしいアフリカと日本との関係の中で生きている事、それはフランスとアフリカとの関係に対して付け加わってきたものだと思うのです。私たちは日本とフランスが共にやって来るのを見ています。手を携えて素晴らしい仕事をして下さっています。政治的な面と同時に、投資、イノベーションもそうです。
関山様のほうからPPPのお話が出ました。この官民パートナーシップは現在では絶対的な必然になっていると思います。TICADのおかげでPPPは更に発展をする事ができました。ビジビリティーを獲得し、資金を得る事ができたからです。横井さんがお話になった事に、まず称賛を申し上げたいと思います。豊田通商がなさったことは本当に素晴らしいことです。豊田通商はCFAOが持っているネットワークを有効に使う事ができるのです。大切なのは、3者協力、即ち、日本・フランス、日本・アフリカ、日本・アフリカ・フランスというかたちです。そういう関係の中で今、民間の企業がその中に参画をしてきているという事です。
今日お話を聴いたのは、アフリカで成功した例ではないかと思うのです。日本の企業と、フランスの企業が共にアフリカに行くという例であります。これらのイニシアチブは我々の方では奨励することしかできないと思います。ありがとうございました。 - M. ンガム ヤヒア
駐日モーリタニア特命全権大使閣下 - TICADは確かにフォーラムとしてさまざまな問題を取り扱うことができました。アフリカと日本の協力に関する問題で、安全から投資に至るまでの問題が話し合われました。私が実際に日本の民間企業の方々にお会いすると「我々はとても興味を持っている、アフリカに進出したい」というふうに言って下さいます。しかしアフリカの幾つかの地域、幾つかの国においては少し赤に染まっているところがあります。つまり政府からそこに渡航禁止になっている国々があります。
確かに安全の懸念はとても重要なものです。けれども、ある程度のものを考えて均衡を取るべきではないかと思うのです。赤い色を少しどこかで溶かして日本の企業がプレゼンスを伸ばす事ができる様にしなければいけないと思います。
ここにいらしている丸紅と豊田通商の2社は、モーリタニアで既にプロジェクトに関わって下さっています。丸紅は非常に大きな砂糖製造のプロジェクトに関わっており、このプロジェクトが本当に実現することを望んでいます。モーリタニアの発展のためにとても重要なプロジェクトであります。豊田通商については特に付け加えることはありません。
日本のタコの消費の45%はモーリタニアから輸出しおり、魚のセクターだけで知られています。我々の国は日本の民間部門に対して開かれています。エネルギーやインフラその他の分野においても協力をしたいと思います。モーリタニアの大統領は1カ月前にセネガルを訪問しました。その際の成果の一つはモーリタニアとセネガルの国境となっている、セネガル川の間に橋を架けるという事でした。日本企業はこうした橋の建設に経験をお持ちですから、モーリタニアにきてその橋の建設に参画して下さい。 - 岡村 善文
外務省・アフリカ部長 - モーリタニア大使、私のほうからちょっとお答えします。渡航情報というのがありまして、外務省が出しているアフリカのみならず全世界を対象に「危険があるので行くのは考え直した方がよい」という様な所を、段階で黄色、黄色からオレンジ、オレンジから赤という色に地図の上で表現されている事を大使はおっしゃったと思います。
これはとても難しい問題でして、我々も色を赤に近づけるによってアフリカに行かれる方々が非常に躊躇する様になる、行けなくなるという事がある事は十分承知しております。しかしながら一方でやはりアフリカのある部分については非常にまだ、我々が日本人の方々に行って戴くには必ずしも適さない、事件が起こっては大変だという所があります。特に今年の初めに起こった、イナメナスの事件を見ると、やはり我々はきちっとした情報を提供しないといけないという事は分かります。ですから、その2つの間のバランスをうまく取りながらやって行きたいのです。我々は適切に日本人の渡航者の方々にどこが危ないのか、どういう注意をしなければいけないのかという情報を提供すると共に、それが健全なビジネスの発展を阻害しないように一生懸命考えながらやっております。
特にモーリタニアのタコですが、確かタコが住んでいるところは赤くないと思います。むしろ青いのではないかと思いますが、ぜひタコの産業に今影響が出ない様には十分考えていきたいと思います。
私は、先ほどベリアール局長が「日本とフランスが共通の利益を持つ」と、マセ大使も「日本とフランスが一緒に働ける分野がある」という事を言われました。将にその通りです。そして今日こうしてベリアール局長に来て戴いております。我々が一番一生懸命話したのは、まさにアフリカの安全を日本とフランスと一緒にどうやって危険な所を無くして行くかという事であります。決してアフリカが全部危険だなどと言う事はございません。アフリカの中の一部にどうしても危険のもととなるような地域があり、問題があります。その問題を日本とフランスで一緒に力を合わせて無くして行く、これが一番の問題の解決になると考えております。ベリアール局長が強く言われたように、やはりアフリカがアフリカ自身できちっとその問題に対応して行く、それはTICADの一番重要な概念、コンセプトであると考えております。より危険の少ないアフリカを作って行く、これもTICADの中で我々が一生懸命努力してきている事ですし、フランスはこのアフリカに非常に力強く取り組んでこられました。カンファン大臣にはTICADにも来て戴きまして、我々はとても嬉しく思いました。これからも日本とフランスで一緒にこのアフリカの安全の問題に取り組んで行きたいと考えています。 - アハメド アライタ アリ
駐日ジブチ特命全権大使閣下 - フランス軍はジブチにフランスのプレゼンスを持っていますし、日本もプレゼンスを持っています。即ち、我々が共有している価値の1つ、それは和平であります。海賊に対して闘わなければいけないのです。
関山さんの発言に、1つ補足をさせて下さい。安倍総理は既にアフリカ来られました。8月にジブチにお見えになりました。岡村大使も代表団の一員でした。アフリカで最初にジブチを訪問なさったのです。それはまさに日本の民間企業もまた、ジブチから始めてほしいという証拠だったのではないかと思います。入り口であることは確かです。他の所に行ってはいけないという訳ではありません。けれどもジブチから始めるべきです。人口3億4,000万人のCOMESAがありますから。先ほどECOWASの話も出てまいりましたけれども、このような3部間協議に対して称賛を送りたいと思います。この日・仏・アフリカの協力により、アフリカが現状から脱出することができると思うのです。これは我々の努力を1つにすればできるでしょう。現地にいる人、現地を知っている人がそこに参画すべきでしょう。
また、同時に日本の企業の方々にアフリカの企業と提携をして欲しいと思います。フランスは確かに現地を知っています。けれども、また同時にアフリカの企業もそこに参加をすることが重要なのではないかと思うのです。アフリカと共に、アフリカの企業と共に協力ができることが重要かと存じます。TICADVの柱の1つはオーナーシップでありました。パートナーシップ、そして協力のオーナーシップの問題は重要でした。その実現化が今行われていると思います。 - 関山 護
経済同友会TICADV PT委員長(丸紅副会長) - 大使、大変失礼しました。安倍首相はもちろん最初の訪問地としてジブチを訪問されています。訂正しておきます。それは、いかにジブチが大切かというエビデンスでございます。私は1年半程前、ゲレ大統領がいらっしゃった時に、経済同友会として一度お相手させて戴いてお隣に座りました。ゲレ大統領が、東アフリカ地溝帯の膨大な地熱発電のポテンシャルを持っており、いろいろな国のコンサルタントにフィージビリティ・スタディをお願いしているが、今ひとつ判然とせず、ぜひ日本の企業に来て欲しいというお言葉を戴きました。プレ・スタディは開始したのですが、まだ本格的にやっておりませんので、今後スタディに協力したいと思っております。
あとは非常に観光資源があるという事をおっしゃっておりました。ただ、世界一熱い国だという事もおっしゃっておりました。 - モデレーター・片岡教授
- まだ幾つか取りたいと思うのですが、他にどなたかいらっしゃいますか。
- 漆原 智子
武田薬品 元青年海外協力隊 - 一般参加の漆原と申します。2年前まで青年海外協力隊としてモザンビークで医療系隊員として2年間赴任していました。今は一般企業に勤めています。豊田通商の横井さんと、JETROの石井さんに質問があります。
まず豊田通商さんは、アフリカに今50カ国以上ありますけれども、最初に日本で車を組み立てて輸出を始めたのはケニアだとおっしゃいましたが、なぜケニアだったのかというのが非常に興味のあるところです。
JETROの石井さんには、アフリカで幾つ事務所を構えているかという事ですが、モザンビークには日本企業も、商社が何社か入って日立なども来ていますが、まだ日本とのかかわりは資源以外のところは非常に薄いかなと思っています。どういう基準で事務所を構えるのかを教えて下さい。 - モデレーター・片岡教授
- 時間の都合上、最後の質問者のも取ってからまとめたいと思いますので、どうぞ。
- 米崎 英朗
JICAコートジボワール事務所長 - JICAコートジボワール事務所長をしております米崎と申します。TICADVにおいては官民連携の重要性を強く打ち出しておりました。ODAに携わる者としてはこれを強力に、かつ早期に進めていく必要があると思っています。私がおりますコートジボワールは、内戦があったにもかかわらず、いまだに域内ではトップクラスの富を維持しておりますので、ここをモデルにせずしてTICADのフォローはあり得ないと思っております。
日本企業の進出に向けてこれから投資環境の整備と有望産業のマスタープランを核として民間支援の事業を進めていきたいと思っております。これにはもちろん経済インフラの整備という事もありますので、現地のフランス開発庁(AFD)とも協力をして早期のインフラ整備を進めていかないといけないと思っております。これには民間企業の方々のご理解も非常に大切ですので、三つどもえ、四つどもえということを肝に銘じて、かつ早期に進めていかないといけないと思っております。
また、会場の方々には、どうぞこれからコートジボワールのODAがどう動くかというのを楽しみに見ておいて戴きたいということを申します。決意表明みたいになってしまいましたけれど、どうぞよろしくお願いいたします。 - モデレーター・片岡教授
- それでは先ほどの質問がございましたので、どちらからお答えになられますか。
- 横井 靖彦
豊田通商副社長 - なぜケニアから車の輸出が始まったのかは、50年前の事ですので、私も詳しくは分かりませんが、恐らくは、まず英語圏でなければならなかったのだろうと思います。2つ目は、ロジスティックス面でちゃんとした港、モンバサ港があったという事です。
もう1つは、小さいながらも車を組み立てる会社がありました。そういった事からケニアから始まったのではないかと推測します。 - 石井 淳子
JETRO途上国貿易開発部長 - 一応、東西南北にあって、最近コートジボワールが再開し、多分もう少し増えて行くでしょう。増えるというのは、前あった数にまた戻るという感じかなと思っていまして、クローズダウンしてしまった理由としてはやはり安全面がありました。平和と安全が確保されればその拠点も増えて行くのだろうと思います。
今ある5カ所がなぜあるかというと、企業のニーズに応じて出して行くというのが使命だと思っており、企業が出るちょっと前に出て行ってお迎えする様な格好でやっておりますので、現在あるところにはそれなりに日本企業も出ていますし、これからも増えて行くだろうという場所です。このトータルな動きがもっと活発になれば、一番海外事務所が多い大陸になるかもしれませんので、温かく見守って戴ければと思います。 - モデレーター・片岡教授
- ルワンダ大使、ムリガンデさんがいらっしゃいますが、最後の発言にしたいと思います。
- チャールス ムリガンデ
駐日ルワンダ特命全権大使 - アフリカ外交団の中で、私はTICAD委員会の委員長をしております。私たちは日本政府と共にTICADに協力できた事を大変うれしく思っております。素晴らしい協力関係ができました。外務省と協力してTICADを準備することができました。特に岡村大使との協力関係は素晴らしいものでありました。私たちはTICADVで得られた成果に対して満足をしています。その際になされた決定について非常に喜ばしく思っております。ですから私たちは日本の外務省と協力をして、どのようにさまざまな決定を実証することができるのかを検討し、協力していく所存であります。
関山さんのお話を聴きまして大変うれしく思いました。TICADの準備の段階で、私たちも経済同友会と手に手を携えて準備を行いました。経済同友会とは経営者団体でありますが、このように協力をしてTICADを準備する事ができたわけです。経済同友会から出された提言は、私たちアフリカ外交団でも反響がありました。なぜなら「官民協力」をプライオリティ・ナンバーワンにしたからです。私たちもアフリカ外交団からの提言を行いましたが、もちろんODAの貢献に対しては歓迎をしますが、ODAだけではアフリカを開発することはできません。決定的にアフリカの開発をするのは民間部門からの投資であると提言の中で述べたのです。
私だけでなく全員がうれしく思ったことは、TICADVが特に民間部門のコミットメントをアフリカ開発の中において重要であると強調した点であります。私たちは日本の外務省と協力をして、日本の民間企業からアフリカの投資を促進できることを確信しております。
今回の機会を得まして私の友人であるジャン-クリストフ ベリアールさんと再会できた事を喜ばしく思います。長い間さまざまな問題で、特に治安問題に関して協力をしてきました。フランスが、いかにアフリカが安全な所になれるかという為に努力をした事について素晴らしい発表をして下さったと思います。アフリカが対決している安全の問題、そこで今後取るべきアプローチについてお話をして下さいました。平和・治安・安定の問題です。 - モデレーター・片岡教授
- さて、本日は「TICAD Vは何を残したか?」というテーマで議論を行いました。TICAD Vの重要なメッセージは、アフリカと手を携えてアフリカの開発と発展のためにオールジャパンで取り組んで行くという事です。特に、重要であったのは、今後はODAのみならず、貿易投資を活性化するという事です。
又、本日は、アフリカにおける安全保障に関する議論もなされました。これは民間では何もする事ができません。政府の力がなければ、安全は保障できません。従いまして、貿易と共に貿易投資と、更に政府による援助も肝要であるというのが、本日の重要なメッセージだったのではないかと思っております。つまり、アフリカにおけるあらゆる問題に官民で対処して行かなければならないという事なのです。
(文責・編集 アフリカ協会理事 淺野昌宏)
アフリカ協会主催 第2回フォーラム
「アフリカの民間セクターとビジネスチャンス」議事録
- ■日 時:平成25 年4 月12日(金)15:00~16:45
- ■場 所:国際文化会館 別館2F講堂
- ■外務省ゲスト:TICAD V担当大使 伊藤 誠 氏
- ■ゲストスピーカー:国際協力機構 アフリカ部長 乾 英二 氏
豊田通商(株)渉外広報部渉外グループリーダー 羽田 裕 氏 - ■参加者:公的機関、民間企業、研究者など41名
続いてゲストの乾JICAアフリカ部長と豊田通商羽田渉外グループリーダーより、
官と民の立場からテーマに関する講話を戴き、
モデレーターを早稲田大学国際学術院片岡教授にお願いして討議を行った。
- 開会の挨拶(要約)/堀内副会長
- 昨年11月28日の第1回フォーラムの際には、協会を代表して服部会長がご挨拶を致しましたが、その後体調を崩され、残念ながら1月末にお亡くなりになりました。会長のアフリカに対する思いやりや、アフリカの日本にとっての必要性、そしてアフリカの大きな可能性を信じてこの協会を二十数年に亘り引っ張って戴いたことに、今更ながら会長のビジョンと偉大さに感心しているところでございます。
鴻池副会長には新会長が決まるまで会長代行としていろいろ事務を執って戴いておりますが、ご承知のように、大阪でタンザニアの名誉総領事をやっておられ、ビザの発行等々、非常に忙しくされ
ており、今日は上京できないので残念だというお
言葉を戴いております。
このフォーラムはアフリカ協会の新しい活動の一環として始めましたが、今年はTICAD が非常に大きな事項であり、6月の支援会合が終わった後、もう一度レビューとフォローアップをやり、それ
以降は会員の皆様のご興味に沿ったテーマを選んでフォーラムを続けていきたいと思っております。これからは新しい体制で協会を運営して参りますが、会員の皆様、これから入会戴ける皆様、どうぞ宜しくご支援戴ける様お願い申し上げます。
- 伊藤TICAD V 担当大使 ご挨拶(要約)
- 11月の第1回フォーラムでは、当時の服部会長がそこの席にお掛けになって、私もすぐ隣でしたが、今回お姿を拝見することができず非常に残念に
思っております。ご冥福をお祈りしたいと思います。
TICAD Vは、本番まであと2 ヶ月を切りました。3月には閣僚級の準備会合がアディスアベバで行われ、TICADで採択する成果文書について閣僚レベルでの大筋合意がまとまり、準備が着々と進んでおります。内容的には、アフリカ諸国の更なる経済成長の為にはインフラの整備、農業の発展、人作り等が非常に大事であること、その分野での官民の連携と民間企業の役割の重要性が指摘されています。また、更に人間の安全保障を推進することや、ポストMDGsをどういうふうに持っていくのかといったような議論、あるいは平和と安定に向けた更なる取組が強調されました。今回も多くの首脳レベルの参加が見込まれるほか、全体の総参加人数でも前回を上回ると考えております。本番に向けて準備を進めてゆきますので、是非とも皆様方のご協力をお願いいたします。
- 1. 乾JICAアフリカ部長のお話(要約)
- TICAD V では民間セクターが非常にハイライトされており、アフリカの経済成長は2000 年代から平均でも5% 以上、それをバネにして各国とも産業構造を変換して農業や一次産品の価格だけに頼るのではなく、労働集約型の工業化に進みたいと考えています。これを後押しするために、JICAとしては「アフリカ民間セクター支援」に取組んでいます。1つは「産業構造改革」で、トップの政策を変換しそこを支援していくというような取組みです。2番目に、それを実施していく「産業人材育成」で人のキャパシティー、能力を向上させていきます。3 番目は「ビジネス環境整備」で、制度や法律などのビジネス環境を整備していくことを支援します。4 番目に、それを支えるための「インフラ開発」、道路・電力・水・施設を支援していくことに取り組んでいます。
1番目の「産業構造改革」の例として、エチオピア・品質・生産性向上普及能力開発プロジェクト」があります。これは故メレス前首相がTICAD Ⅳのシンポジウムの際にアジアの経験をアフリカの開発に生かすという話があり、是非その経験をエチオピアでやってほしいとJICAに直接要請があったものです。プロジェクトの中では、生産性向上運動や5S「整理・整頓・清潔・清掃・しつけ」等を、どのように普及できるかという事をエチオピアの人達と一緒に考えてやりました。政策対話というトップダウンも重要ですが、自分で発想して自らの生産性向上につなげるボトムアップの部分も非常に重要だということの例です。
2番目の「人材育成」では、産業構造変革と民間セクター推進をできる人材が必要で、職業訓練とか産業界のニーズに合致した人間をどうやって作るかということです。その実践例として、南ア・ツワネ工科大学の成功例があり、これを他の工業大学にも広げようとしています。又、高等教育を支える為に、初等・中等からシリーズで取り組む事や、理数科教育にも力を入れて人材育成を考えています。
3番目の「ビジネス環境整備」では、ザンビアの投資促進プロジェクトを紹介します。マレーシアの投資庁副長官のジェガテサン氏の40年の経験をザンビアで使いZambia Development Agencyを作り、そこが具体的に投資促進のミッションを出し、また投資をするための環境整備でいろいろなセクターの分析、プロファイル、資料作り等も行っています。その中で、マレーシアの携帯電話会社の工場進出や、首都ルサカにおける日立建機のサービスメンテナンスの工場建設という実績が出てきています。
4 番目の「インフラ開発」は、道路、港などのロジスティックを回廊沿いに整備しますが、モザンビークのナカラ回廊など拠点を絞って集中的にマスタープランを作り、物流を動かすソフト、ハードを供与します。One Stop Border Postでは、通関手続を1つにすることに取り組み、必要なハードを供与し、制度を構築し、人材作りを支援します。電力はニーズが高く、今後工業化が進み人々の生活
が潤った時に一番必要になる部分であり、国毎の電源開発よりも、エリア毎の整備の方が効率が高いという考えで取組んでいます。日本の技術力が生かされる地熱発電や太陽光など優位性の高い所でチャレンジしたいと考えます。
最後にモザンビーク国ナカラ開発回廊地域開発ですが、北のロブマで天然ガスが発見され、南のテテ州では石炭事業化が進められ、東のナカラ港では港と道路を建設し、民間とも連携しながらやっています。また、コアとなる「プロサバンナ・プロジェクト」をブラジルと一緒に取り組んでいます。このナカラ回廊はザンビアやマラウイに繋がり、内陸部のロジスティックの向上にも寄与します。加えて、保健・人材育成・森林保全など総合的なアプローチでモデルケースとして取り組んでいます。
- 2. 羽田豊田通商渉外広報部渉外グループリーダーのお話(要約)
- アフリカから日本への期待は、「製造業に進出して欲しい」ということだと思うので、生産の現場で苦労した何人かの体験談を基にお話をします。
その前に、当社のアフリカでの事業について説明させて下さい。当社は、アフリカに出資している会社が8 社あり、これらは全て自動車の販売会社です。8 社合計で約2,500人を雇用し、ケニアとア
ンゴラで、500 ~ 600 名、他の数社は150~ 200名規模の雇用です。特徴としては、主にトヨタという強いブランドの商材を扱い、かつ販売が中心なので、場所はその国の首都など大都市に拠点があ
り、結果、その国では比較的人材を集めやすい状況にあります。
この4月にケニアとアンゴラから帰任した駐在員に、採用方法を聞いたところでは、日本と同じ様に一流の新聞紙に広告を出したり、人材派遣系の会社に依頼したり、時にはヘッドハンティングもす
るなど、日本とあまり変わらない採用活動を実施しているようです。逆に、困っていることは優秀な人の引き留めで、転職でステップアップを図る人への対策が、人事上の主要テーマだそうです。
当社も、対策としてアフリカでゼネラルマネージャーまで昇格した人を、次に中南米の社長に据えるなどのキャリアステップを用意して、グローバルなジョブローテーションを実施しています。一方、車のサービス技術者は、職業訓練校等の卒業生を採用しますが、企業内訓練を1年はやらないと駄目です。何故かというと、まず訓練校のトレーニング用の機材は治具にしても、1・2 世代前のもので、それが使えると言われても、日系企業が求めるサービスレベルを出すための機材を扱えるレベルにはないので、もう一度一から教え直さなければいけません。また、訓練校で教える教育者の技量レベルが低いということもあり、教育者の教育をする優先度のほうが高いのではないか?という意見も聞かれました。
次に、南ア・トヨタ自動車の生産拠点で社員教育に携わり、実際に苦労した人の話をします。南アを輸出拠点とする為に、輸出に耐えられる品質の工場にするミッションを帯びて、4年間駐在したそ
の人は、今まで品質が出なかったのは何故だろうと考えたそうです。
新車を納入する際に、物流の途中で汚れ、泥だらけになった車を、そのまま納車してしまう事もあったそうです。つまり、車を持ったことがない人が車を作る工場で働くわけで、車を買う人の気持
ちも分からず、車を買うということが、どういう意味を持つのか分からないわけです。教育は、そう言ったしつけのレベルから見直すところからスタートしたという話でした。やった事は、まずは職場環境を少し良くすること、例えばキャンティーンで出す料理に一手間加えて、冷たいスープしか知らない人達に温かいスープが美味しいことを分からせ、自分が現場の人間を大切にしているという姿勢を目に見える形で実行する様にしたそうです。従来、南アではマネージメントは白人で、労働者は黒人です。黒人はマネージメントの世界には全く縁がないと思っていると人達で、労働組合はあっても、白人のマネージメント層と話をして問題を解決しようということを知りません。何かあればストやデモを起こすことしか知らず一体感も出ません。心掛けたのはマネージメントと現場の間に常に自分が入り、不満があればデモをするのではなく、まず自分に話しをさせ、対話を続ける努力をしたそうです。又、良い物とは何かを全然知らない人達なので、工場の現場で、整理された状態を知らない人に整理整頓と言っても難しく、整理された状態とはどういう状態なのかから説明するなど、「マイナスからのスタートという覚悟を持ってやらなければいけなかった」というふうに言っていました。このようにアフリカでは、公的教育の分野に相当する部分が未成熟なため、教育の相当な部分を企業自身で実施することになります。「出口のある職業訓練」と言ってもアフリカ側が考える出口と、我々が考える出口のレベルが相当異なる可能性があり、この点の意識あわせは重要だと思います。
あと、当時の特殊な事情として、人を育てても、HIVで亡くなるのが相当数いたことも上げられました。結局、コストを掛けてHIVの啓蒙活動をやらざるを得なかったそうです。この部分は国とか
公的な機関の方でしっかり教育をして戴きたいと思います。
アジアの場合、国として産業を残そう、製造業というのはこういうものだという理解が国自体にもあって、ここは国がやるべきだということを理解してくれるレベルなので、アフリカとは大きな違いがあります。又、日本はマネージメントとボトム層との距離が近く、教育レベルもそろっている為、日本人の常識では理解しがたいが、アジアの人は今のアフリカに近い状況を経験しており、人材育成経験もあるので、その知恵を取り込むべきだと思っています。当社も、最近フランス系商社を買収したので、フランス語圏のアフリカで人を育てるノウハウを逆輸入したいと考えています。
最後に、もの作りをやる時に鉄道などの大量輸送手段が無いことは、物流コストが割高になる要因です。先ほどのOne Stop Border Postの話ではかなり改善される様ですけれども、インフラ整備も戦略的にやっていかないと、なかなかアフリカの人たちが希望する様な産業基盤の多角化は出来ません。現在、JICAさんと、どこでどう協業できるかという話をさせて戴いており、何か1つモデルケースが出来たらよいと思っています。
- 3. フォーラムの討議
- モデレーター・片岡教授
- 今日のテーマは「アフリカの民間セクターとビジネスチャンス」ですが、官民連携というのは非常にアフリカでは大事なので、民間企業の方々とJICA乾部長及び政府関係の方々と、如何に力を合わせてアフリカへの民間セクター支援、或いは日本の民間セクターを如何やってアフリカの開発に活用させていくかという事の議論をしたいと思います。
TICAD Vは20 年やっていますが、アフリカが注目される様になって行われるTICAD は2度目であろうかと思います。2005 年頃からアフリカ争奪戦が繰り広げられ、各国がアフリカに目を向けるようになりました。特に2005 年以降アフリカの経済成長率が上がって、2013年のIMF統計では6% 位になっています。実際にナイジェリアは90年代にはGNPパーキャピタが600$ぐらいで、今では2,000$ぐらいになっている中、日本は出遅れ、特に民間投資が出遅れているといわれています。2010 年の統計でも世界水準では貿易投資の方がODAの額を上回っていますが、未だに日アフリカ関係はODAがベースです。アフリカ外交団もODA ベースのリレーションシップを変えろと声高に訴えています。というわけでTICAD Vの重要なテーマの一つとなる民間セクター支援という非常にタイムリーな議論を、ここで忌憚なきご意見を伺いながら進めていきたいと思います。
今回は事前アンケートをさせて戴いたのですが、最も大きな点は、官にはインフラ整備をまずしっかりやって戴いて、その上で民が進出できるような環境を整えてほしいという事です。更にアフリカに対してもいろいろな非関税障壁などありますから、官のほうが改善するように求めていくのが良いのではないでしょうか。先ずは、JICA の乾部長と豊田通商の羽田さんへのコメントあるいはQ&Aを踏まえながら討議をしていきたいと思います。 - 広瀬 晴子
前モロッコ大使 - 南アでは自動車の生産から入ったのでしょうか。モロッコの場合、部品の製造を始めて、矢崎総業とか住友電工がワイヤーハーネスで成功して、両社合わせて2 万人ぐらいの雇用を生んでいます。工場の数は、住友電工で5 つ、矢崎で3 つです。工場には「5S」なんかが貼ってあって職員を訓練するというところは日本と同じで、もう歩き方からピシピシ歩けというようなことをやっています。一方で職員を大切にし彼らの為にクーラーを入れ、食堂があって、羊犠牲祭のときにはバスで田舎に帰したり、職員は非常に満足して働いています。その成功の上に、ルノー・日産が工場を建設する事を決定しました。ワイヤーハーネスのような単純労働者も質のいい人がいます。問題はメンタリティーにあって、特に若い男子はあまり仕事をしないので、田舎出身の若い女性を使っています。しかし、熟練工は足りません。そこの教育を日本に期待されており大きな課題になっています。私は、北はモロッコ・チュニジア・エジプトで、南は南ア、この両方でアフリカの経済開発を引っ張っていこうじゃないかと言っていました。南アでは部品など如何したのか。まず自動車生産から始めたのでしょうか。
- 藤岡 直樹
トヨタ自動車(株)アフリカ部第2 営業室 - 弊社の場合は比較的歴史が古く、1960年代から組立てをやっていた地場の会社に出資し、そのシェアを広げ、今は100%となっています。従って、当時から車両製造は始まっていて、資本を入れる中で徐々にアフリカを輸出拠点に変えていき、品質、コスト競争力を追求する中で、日系の部品メーカーに後追いで出てもらいました。それまでは、自国内生産だったので、地場にあるローカルサプライヤーを使っていました。
- モデレーター
- 議論を深めたいので、いろんな方に発言を求めます。自動車の製造過程の話になっていますが、商社の方で何かコメントなどありますか。或いは何か補足的な説明はありますか。
- 羽田 裕豊田通商(株)渉外広報部
渉外グループリーダー - アフリカで自動車の生産拠点を考える場合、まず、現在生産拠点がある南アをどう生かすか、から検討し、その後、新設という話になると思います。そういう意味では、これからすぐに別の場所に生産拠点を新設という話は、まだまだハードルが高いだろうなとは思います。各自動車メーカーはどこで何を造るかというのは、やはり部品を持ってくる港湾などのインフラとか、ある程度その国内・周辺国で売る台数が見込めないと難しく、試行錯誤の積み重ねだと思います。私どももモロッコをトヨタに紹介しようと考えたのですが、国内向けだけでは量が見込めないので見送りました。
- モデレーター
- 他に豊田通商ならびにJICAへの質問、コメントはおありですか。無ければ、名簿の順番で、三菱商事の宇野様はいらっしゃいますか。
- 宇野 博史三菱商事(株)企画業務部
欧阿中東CISチーム - 企業の行動としてアフリカは重要なので長期的取組みが必要だろうという前提ではあるのですが、「小さく生んで大きく育てる」ということがアフリカでできるのかどうか、今の自動車メーカーの例ではある程度の覚悟をもって資本を投入していく、人を投入していく、最初は当然もうからないというビジネスになると思いますが、覚悟を決めて一気にいくという事がいいのか、それとも、弊社でも小さくやっても何時までも育たず、人手だけ掛る失敗例はありますが、アフリカはどっちに向かっていったら宜しいとお考えでしょうか。
- 乾 英二
JICAアフリカ部長 - アフリカは2000 年の後半から経済成長をしている大陸であり、地下資源も豊かで、人口の伸びも大きい、その中で日本が行かないのは日本の経済にとっては決してプラスではないと思います。小さくいくか、大きくいくかという議論の時に、商社は資源など割と大きなことを考えるし、中小企業はワイシャツの工場を作り、佐藤さんがケニアでマカデミアナッツを30 年以上にわたり育てています。従って、商社が考える小さいインプットもアフリカの国にとっては大きいインプットだったりするので、「小さく生んで大きく育てる」ことは可能かという質問には、可能な部分と可能ではない部分があるという答えになると思います。今中国人は大陸に100万人以上いて、大きなインプットが浸透している中で、日本にとって優位性の高い分野、または今から取っていける分野はどこなのか、戦略的に考えていくことが重要ではないでしょうか。
もう1つ重要なことは、バラバラにやるのではなく、1つの国なりエリアを決め、相互乗り入れとか、1つの拠点として開発するという戦略が必要なのではないでしょうか。 - 野口 勝(株)国際開発アソシエイツ
パーマネント・アソシエイツ - 「大きく入って小さく育てる」これはものすごく重要なことだと思います。南アでは昔はlocalcontent が高くて出来上がった車がすぐボロになるということがありました。ところがトヨタさんは大きく入ってきたわけで、それはマーケットがあるからです。ケニアでもナイロビに行くとトヨタシティといってもよいくらいにトヨタの車しか走っていません。20 年前とは全然違います。ですから大きく入って小さく育てます。小さく育てるというのは、国民車を造りたいという要請などに対応するものです。自動車というのは裾野の広い産業なので、部品をタイから持ってくるのもよいが、同時に現地で作るという視点に立って、小さな物でもよいから作りそれをはめ込んでいく。そうすればあの車は自分たちが作ったのだ、参画しているのだという意識が、アフリカを変えていくきっかけになると思います。戦後の日本の自動車産業は経産省の指導も有りこれだけ伸びたのだから、今度はアフリカに入って単に組み立てるだけではなく、「大きく入って小さく育てていく」ということをお願いしたいと思います。
- モデレーター
- せっかくですから法人会員の方にコメントあるいは質問などを伺いたいと思います。住友商事の岩倉さん、お願致します。
- 岩倉 真樹住友商事(株)地域総括部
部長代理 市場開発チーム - 「小さく生んで大きく」という話ですが、会社として一度議論したことがあります。経済データ、人口の規模などで分析すると、たぶん他の企業でも同じ絵になるよねという結論しか出ず、どう豊田通商らしさを出すかがポイントでした。そうすると大きく生んで大きく育てる戦略を取れる国は、まだアフリカにはないのが実態だということになります。インドとか中国の場合「小さく始めて大きく育てよう」と考える企業はあまりなくて、ある程度の規模でボンという話だと思います。アフリカは54に細切れになっているのがネックだと言うことで、外務省や経産省には、地域連携、面でという話をしています。
車は一台100〜200万円で、部品にすると数万、数千円という単位であり、利益額は車であれば何十万ですから、その国だけで何百台売れれば利益が出るという計算が出来ます。部品にばらすと、今
度は逆に五万台とか十万台分の部品でないとペイしないのが分かります。国が小さいので、国同士が商圏としての広がりとしてとらえて、例えばここは金属加工業が非常に古くから盛んなので、ここで排気ガスを出すためのパイプを作り、その数量は5カ国合わせて何万本というやり方になります。 - モデレーター
- 地域統合という観点では、1991年にアブジャ条約を結んでいて、1994年に発効し、2034年までにはアフリカ経済共同体を作る事になっています。各サブ・リージョナルの地域機構が纏まる形で2034年までには関税障壁を全部取っ払って大きな経済共同体を作るのですが、今は東アフリカ共同体のルワンダ・ブルンジ・ケニア・タンザニア・ウガンダが一番進んでおり、それでもまだ非関税障壁が多い状況です。ただ、会社をつくるときの登記など昔は3 週間から2カ月の処が、今は2 〜4日で出来るようになりました。ただ地域ごとに千差万別で行政府の問題とかアドミの問題というのは、政府の方で働き掛けないとなかなか難しいと思います。会員企業の商社の方で、丸紅の原島さん、お願いします。
- 原島 梓丸紅(株)市場業務部
課長補佐 欧阿中東チーム - ここ数年アフリカの支店・出張所の数を増やしており、近年ではアンゴラのルアンダ、ガーナのアクラに開設したほか、今年度はモロッコのカサブランカにも出張所を開設しました。また、新規に中東・アフリカ支配人を置き、現地からの情報発信を強化する様にしています。現在、取組み中のものは、アンゴラの繊維プラントのリハビリや、砂糖・エタノール工場の新設などがあります。また、ナイジェリアのデルタ地域での発電所の建設などの他、トレードにも取り組んでいます。
抱えている問題はほとんど他社の皆様と同じで、最近の事例では、アンゴラで労働ビザの発給実現までに2年間を要し、この間に関係者は都度ヨハネスブルグに出て、ビザを取り直して入国するというのを繰り返していました。ナイジェリアのデルタ地域では発電所の建設をやっていますが、治安上の問題で出張規制が出るなどで悩まされています。こういった部分でぜひ官の支援が欲しいと思います。
どの国に集中するのかという点では、マトリックスを作って考えていますが、やはり南ア、ナイジェリア、といった所が出てきています。他企業も同じだろうという事で、違う国はないかと必死に考えているところです。
質問ですが、先ほどのJICAの事業の中で、民間連携ボランティア制度があり、企業から協力隊への社員派遣がありますが、もう少し詳しくご紹介戴けませんでしょうか。 - 乾 英二
国際協力機構・アフリカ部長 - この制度自体は非常に新しく、まだアジアで数例です。基本的には青年海外協力隊に所属いただき、例えばベトナムに工場進出を検討していて事前にベトナムの状況を把握したい場合、現地の公的な機関に入って現地政府の仕事をして戴きます。その中で言語を習得し、現地の仕事の進め方や商習慣を経験して帰り、企業の活動に役立ててもらうという様なことを想定しています。
- 山崎 正則
JICAアフリカ部 計画・TICAD 推進課 - 従来の制度ではJICA側で要請を取付けて、要請の中から企業が関心を持つ所に社内派遣をする方式でしたが、新しく導入された民間連携ボランティア制度では、企業のニーズを伺いながら一つ一つオーダーメードに近い形で協力隊派遣を行っています。
- 乾 英二
JICAアフリカ部長 - アフリカにはもう40 年以上青年海外協力隊を出していて、評判が良い。今アフリカで働く3割以上の日本人がボランティア事業、特に協力隊経験者で、その国を理解した人が企業活動を行っています。この趣旨の中で我々もお手伝いしたいということです。
- モデレーター
- 豊田通商の羽田さんはお時間が無いという事なので、最後に政府にこれだけはやって欲しいとか、アフリカ側に伝えたい事があれば一言だけお願い致します。
- 羽田 裕豊田通商(株)渉外広報部
渉外グループリーダー - アフリカに出て行く時に、国という単位ではなく面で市場を捉えられれば、出やすいと考えます。資源ポートフォリオは豊田通商の弱い所なので、逆にアフリカを市場として見たいということです。成長性はあるのですが、小粒な所をまとめる事を政府から支援してもらうことが出来ればありがたい。複数の国が、地域としてまとまるということは、その地域の国家間の治安が安定していないとできないことですし、政治的にも安定がないとお互いが仲良くなることはあり得ないと思いますので、そういった所の支援や対話を、引き続きお願いしたいというのが一番言いたいことです。
- モデレーター
- 会員企業から、いすゞ自動車の吉川さん、お願いします。
- 吉川 龍一いすゞ自動車(株)海外営業第2部
アフリカグループ - アフリカに関してはエジプトと南アに工場を持っていて、運営のノウハウを持つGMとの協業でやっているといった状況です。ただ、今後アフリカの発展が見込めるので、よりアフリカに注力していかなければいけないという意識でおります。問題はビザの発給とか、事務所開設の登記関係のノウハウがなく時間が掛ってしまう事が頻発しており、官のサポートがあればと言うのはよく言われます。
又、トヨタさん程、大きくないので、部品メーカーを連れて行くのが難しく、現地を使わざるを得ません。その意味で現地の部品メーカーを育てるとか、能力のある所を紹介するなどのサポートがあれば有難いと思っています。 - モデレーター
- ビザの発給とか登記の問題、一般的なその様な障壁は、外交団に会う度に言っていかないと駄目なのかもしれないと思います。引き続き、双日の福居さんお願い致します。
- 福居 通彦双日(株)海外業務部
中東・アフリカデスクリーダー - 私はアフリカビジネス開発に係って6年になりますが、なかなか前に進まずに苦悩しています。例えば某国でプラント建設を受注しましたが、この1年以上契約が発効しておりません。これはその途中に大統領選あるいは議会選挙があり政治、行政が止まったのですが、一事が万事であらゆることがなかなか進みません。モザンビークではチップの工場を建設し、昨年の10月から生産を開始しましたが、こちらも港の問題や税金の問題、いろんな問題をたくさん抱えて日本政府や大使館の協力を戴いて解決を図っていますが、なかなか前に進ず、支援策の底上げが必要と感じます。
企業は短いスパンで利益を追いかける事が多く、長期的な観点からの取り組みは難しいが、市場を絞り集中的に継続してやって行くことで解決出来るのではないかと感じています。 - モデレーター
- 東芝の藤巻室長、一言、何かお願いします。
- 藤巻 義恭
(株)東芝 国際渉外室室長 - 私はアフリカでのビジネス経験が無いので、東南アジアの経験でお話しますが、新興国の一つの成長パターンとして、人口が都会に集中して都市化が急激に始まると、渋滞が激しくなり地下鉄やMRTのビジネスが出るとか、あるいは高層アパートやビルの為にエレベーターあるいは自家発電というビジネスが出てきます。アジアの場合、この様な成長パターンがあるのですが、アフリカは如何でしょうか。これは質問ですが、アフリカは成長するといわれていますが成長パターンというのはアジアの様に都市化という様な形を取るのか、あるいは全く違う形を取るのか、教えて戴ければと思います。
- モデレーター
- いろんな意見があると思いますが、堀内大使、如何でしょうか。
- 堀内 伸介アフリカ協会副会長・
元ケニア大使 - アフリカの成長は資源はもちろんなのですが、人口増加率が2.5 ~ 2.9%とも言われていて非常に早く、都市化も進んでいます。1950 年にアフリカには100 万人都市は一つもなかったですが、今は30以上あります。その内の半分以上がmultimillionで、ナイロビなど30 年前はほんの100万あるかないかでしたが今は500 万です。この様に都市化がものすごく早く進んでいて、人口成長と特に都市の中間層が成長の原動力だということがいわれているぐらいで、フランスではそういうところに目を付けているというレポートも出ています。
ですから都市化はすごいし、同時にすごい建設ブームで、昔は10年経っても町並みはあまり変わらず迷子になることはなかったのですが、今はもう5年で町並みがすっかり変わってしまうほどの建設
ブームです。 - モデレーター
- それでは、AfDBの玉川所長にお願いします。
- 玉川 雅之アフリカ開発銀行
アジア代表東京事務所長 - 今アフリカは非常に大きな変化を遂げており、ビジネスチャンスが大きく伸びていると確信し、それをいろんな所に伝えているところです。経産省さんの方も、いろいろなリードを取っておられてBOP研究会というのがあります。若手起業家や青年協力隊のOBも含めて新興起業家の人達が、今どういうマーケットに入るかなど研究会をおこない、その実態が明らかになってきました。昨年9月からアフリカビジネス研究会を始め、結構面白い事をやっている会社があり、ヤマハ発動機とか、豊田通商が2,000 億円出してアフリカ全部に拠点を置ける会社になったとか、日立建機がザンビアで銅鉱山に鉱山機械の納入を始めているとか、味の素がナイジェリアやコートジボワールでリパック工場を作ったとか、驚く様な面白いケースが沢山あり、意外と皆さんが思っているよりも、アフリカに対してビジネスをやっていることが分かります。商社の方は1回引いたのですが、最近これだけブームになったのでやり始めています。三井物産がモザンビークで大きな石油をやるとか、住友商事がアンバトビーをやるとか、いろんな形で新たな将来に向けてのビジネスが開けています。メーカーの方も、トヨタなどは南アに相当な拠点を築き、ブリヂストンは工場やって現地を変えたり、関西ペイントはアフリカを拠点に世界一のペイント企業になる為に現地企業を買収しました。JTですら南スーダンでアフリカNo.3 のたばこ会社を300億円で買収して、これをNo.2 にしようと目指しているとか、さまざまな例が起っています。
それで、我々はアフリカで今どれだけの日本企業がビジネスをやっているか調査をして、今日までに350 社のリストが出来上がってきました。これは去年設立されたアフリカビジネスパートナーズ社に依頼して、外務省・JETRO・JICAの協力を得て作業したものです。TICAD までに公表リストとして発表し、いろんなビジネスモデルがアフリカにあるということを皆さんに知って戴きたいと考えてい
ます。中国に比べてあまり目立った動きではないのですが、さすが日本の企業はちゃんとやっているということがお判り戴けると思います。
先ほどの話しで、アフリカは国が多くてどの国にアプローチをしたらいいのか分からないという議論と、今の発展を本当にまともな発展と考えて良いのかよく分からないという2 つの議論がありました。インドで10 年ぐらい前に起こっていたことが、現在アフリカで起こりつつあり、ちょうど10億人ぐらいの大陸で都市化も進みつつあり、ガバナンスも若干改善されてきて、しかもインドより資
源は豊富にあり、面積は10 倍あって農業とかのpossibilityもあります。インドも考えてみると80 年代の終わりまでは「絶望の大陸」と言われて、ほとんど開発の余地がないと言っていたのが、債務危
機が起きて冷戦の後に漸く自由化政策が進んで現在の様になったという背景があります。アフリカの類似点は2005 年の債務危機でお金を借りられなくなって、そこから大きく変化すると同時に資源
の発展がありました。他には、ITも貧者のIT である携帯が使われてビジネスが非常にしやすくなっているなど、かなり根本的な変化が起こっているのではないでしょうか。
最後に国の問題にしても、政府はあるがせいぜい州政府とか県政府みたいで、国民の経済活動はほとんど国境と関係なく面的に広がっています。その意味では恐らくインドだって、日本から進出し
ている企業が各州を全部知っていて州ごとの制度が分かっているわけではありませんが、そこでもカルカッタ、ボンベイとか、さまざまなところに拠点を持って進出しています。アフリカは恐らくそういうかたちで日本企業の拠点となる所が南ア以外にもナイロビとか、コートジボワール、もしも2 億人のマーケットを攻めたいのであったらラゴスに入っていくとかが出来ると思います。幾つか今後の拠点となるべき都市などの要件が整う様になって、そういうさまざまな変化が起こっていることを示したいと思っていますし、そのベースで官民連携の議論も行って欲しいと考えています。 - モデレーター
- せっかくですから経産省から何か一言お願いします。
- 松本 敬一経済産業省
通商政策局中東アフリカ課課長補佐 - 今所長からご紹介戴いたBOP 研究会とビジネス研究会の2 つをやっていて、早晩報告書が出るかと思います。アフリカに対するアプローチは徐々にではありますが、増えてきていると実感しており、相談件数も相当増えてきています。実際にはどれだけ進出が実現出来ているか確認は取れていませんが、以前に比べれば関心も高まっているかなと思っています。その一つの例が、TICAD Vの公式サイドイベントとして経産省とJETROが共同で「アフリカン・フェア」というのを開催しますが、5年前のTICAD Ⅳでは日本企業コーナーは11社で地雷除去機やトラクター、あとは商社関係が中心だったのですが、今回は75 社と増えて業種もさまざまです。特に多いのが水関係、環境関係が中心で、75社を超える企業が参加するという状況になっています。この機会にビジネスにつなげたいという思惑も多分にあるのだろうと思います。我々もこの機会を通じて、どんどんアフリカに展開していって戴ける様、支援していきたいと思っています。
- モデレーター
- 時間もきましたので、まとめに入ります。いろんなさまざまな問題を抱えていて法制度の整備、優秀な人材の育成、非関税障壁、インフラ整備といった国内要因はありますが、資源があるところには投資が入っていきます。投資の後に貿易がつながりますから、資源業界がどこを見ているのかというのがアフリカ戦略の鍵の一つでもあります。
中国、インド、特に欧米の資源企業がどこを見ているかというのも鍵ですが、欧米企業あるいはアラブ・マレーシア・シンガポールといった企業と一緒に出ていくというのもいいのかなと思います。例えば、三井なんかは確かシンガポールで子会社をつくって、シンガポールからヨハネスブルグ・ガボン・リーブルビルとかに行っているのもあり、最近では特にマレーシア、シンガポールはアフリカに投資をかなり強化して国家戦略としてやるようになってきています。
是非、こういったTICAD Vの機会を捉えて、法制度整備支援とかはアフリカ外交団にやってもらわなければいけないのですが、日本は官民連携でインフラ整備を含めさまざまな企業が参加出来る道筋
を作っていく事ができればと思います。そして将来的には地域統合が更に強化されれば進出しやすくなるのではないでしょうか。有難う御座いました。
記録者( 一社)アフリカ協会 淺野 昌宏